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夏
事務所にはいつも、白猫がいる。
「こちらへどうぞ。お話、お伺いします」
俺は、設計事務所の窓口やら営業やら…
いや、経理?とにかくいろいろやっている。
猫の夏は気ままに寝ている。
お客様もほっとする感じもあるし、猫効果は絶大だ。
アレルギーとかもあるし、電話もらった時点で、事務所に猫がいるということはお伝えしている。なにごとも事前連絡は大事だ。
「新築みたいに、なりますか?部屋数も増やせるのですよね?」
「はい。こちらを解体し…」
四季さん、帰ってきてー
難しいこと聞かれたらわかんないよー
「いらっしゃいませ。遅くなってしまい申し訳ありません」
冬のお迎えに行ってて、ちょっと遅くなってしまったけど…ぬかりなくお話できたのでよかった。お客様との契約が成立したので、やっと安心できた。
「あなた。冬が辛そうにしてた。…秋も元気ないの」
「…冬、病院に連れて行けたらいいけど」
「冬は嫌がるからできない」
「…そうだよね」
「さて、残りの仕事済ませて、春のお迎え行かないと!」
四季さんは張り切って書類を広げた。
さて、俺も休憩しよう。お客様の飲み物を下げて、片付けて…
でも、やっぱり子供たちが心配になる。
給湯室でこっそり電話する。
「二郎?…昨日も電話したのに、ごめん」
いつの間にか、夏がいる。
俺を慰めてくれるの?よしよし。
「なんだよ。今度は春のこと?」
「うちに、遊びに…」
いや、二郎はバンドのステージがあっても、ほっぽりだしてきてしまう。だめだめ。
じっと夏に見つめられた。冬も会いたがってるよ?とでも言ってるのか?
「…来て欲しい、お願いだよ、二郎」
「は…、今から?が、いいよな?」
「ごめん、二郎…」
「…ったく!すぐ行く」
できた弟を持てて嬉しい。夏も、俺の心をいつも読んでくれる、家族である。
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