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その時、私は変わらず公道でうずくまっておりました。真っ暗でしたから、私はそこを自宅か実家か勘違いでもしていたのでしょう。すると、遠くから光が差し込み近づいてきます。近くまで来ると光の正体が車のヘッドライトであることは確認できました。クラクションを鳴らされ車の助手席のドアが開いた時、私は突如、正気に戻りました。正気というより狂気であったでしょう、人間の方に姿を見られたのですから。
人間の方に本当の姿を見られるというのは、種族の死を意味します。運よくその場は逃げだせたとしても、その事実は必ずどこかで誰かが耳にします。怪物は昔から人間からの目を恐れておりますから、その姿、その存在を知られることを拒みます。そんな禁忌を犯したとなれば、怪物の多種族から迫害を受けることでしょう。今ではやっと怪物のことが人間の歴史から消えてきて、怪物界でも過去のことになろうとしております。そんな中で私が人間の方に姿を晒すなど、一族の恥。町に戻っても面目が立ちません。いっそのこと、桜田様一行を殺害しようとも思いました。多少ともそんな無礼を考えたこと、今でも後悔しております。
今度は本当に話が逸れてしまい申し訳ありません。時間の無い中、書かせていただいているため、このまま話を進めさせていただくことをお許しください。
桜田様の第一声は私の予想する全てとは相反するものでした。
「大丈夫ですよ。」
その言葉は生涯、忘れることはございません。驚くでもなく、怒るわけでもなく、はたまた、問いかけをしてくるということでもありませんでした。こんな私に安堵の言葉をかけていただいて、恐ろしい姿をした私に近寄ってくださいました。今思えば、大変酔っぱらっていらっしゃったせいで勘違いなされたのかもしれません。それでも、あの時の桜田様の一声は私の全てを悟ったように救いの言葉でございました。
それどころか、私の様子を案じてか、運転席にいらっしゃったお連れ様が降りてこようとするのを止めて私をゆっくり公道の外へと運んでくださいました。私を運ぶと桜田様は車の助手席にお戻りになり、出発されました。運ぶ時にはもう私の体も大きさを元に戻しておりましたから、運転席のお連れ様には私の姿は見られていないようでした。
私は起き上がってから確認したのですが、私の身を案じたのか手元に千円札が二枚が置かれておりました。これは桜田様からの度重なる救済と感じ、涙なしに受け取れませんでした。きっと桜田様はタクシー代とでも思い置いてくださったのでしょうか、大変お世話になりました。
そこでどうやら落とされたような免許証もありましたので、今回の手紙を書き送らせていただくことが出来ました。お借りした二千円、落とされたであろう免許証に関しましては同封させていただいておりますので、ご確認ください。
重ね重ね大変ありがとうございました。御恩は一生、忘れません。
最後に失礼ながら、この手紙、私のことは他言無用でお願いいたします。私を絶体絶命から助けていただいた桜田様ですから心配はしておりませんが、一族の命もかかっております故、失礼ながらよろしくお願いいたします。
敬具
ワードナー・アインシュタイン」
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