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怪物の恩
ピンポーンッ
インターホンの音で目が覚めた。
「はい、はーい。」
私は印鑑を持って玄関口まで急いだ。扉を開けると緑の制服に鍔のついた帽子をかぶる配達員の人が立っていた。
「桜田陽子さん宛ての書留です。ここにハンコいだたけますか?」
テンプレートのセリフに条件反射で判を押す。
「ありがとうございましたー。」
顔もはっきり見えないまま、その人は次の仕事へと歩いて行った。
「誰からだろう?」
私は書留の差出人を見る。
「ワードナーさん、怪物協会本部。…誰?」
誰からかも分からない書留を受け取った私は苦い顔になった。それでも受け取ってしまったからには開けるほかない。私は恐る恐る封を切った。
中を見ると三つ折りになった手紙が何枚か入っているのが分かった。封筒の中から手紙を取り出して折り目を開く。元の形に戻ろうとする手紙をしっかりと広げてから、手紙を読み始めた。
「拝啓 桜田陽子様
突然のお手紙失礼いたします。差出人を見て驚かれたことでしょう。お会いした時に名前を名乗ることが出来ず申し訳なく思います。手紙での表明となり誠に遺憾ながら、これからの説明に支障が出ると思い名乗らせていただきます。
私は「ワードナー・アインシュタイン」と申します。本名は別にございますが、人間の世界においてはこの名前で生活しております。出身はウシュムガル地方のスプリガンの町で育ちました。町は平和で住人全てが家族のように暮らしております。成人までは不自由なく暮らしてきました。私共の成人は人間界に出向いて一人前に過ごすことを意味します。私も例外なく、成人後は人間界にて生活しておりました。職業に関しましては、職場の方々に迷惑がかかることも考慮して伏せさせていただきます。そこでは人間の方々に大変よくしていただきました。何も分からない私に何から何まで教えていただき、一人前になることが出来ました。私もそのことに自負を感じておりました。
しかし、その自負がただの傲慢であったことは言うべくもありません。私は人間界に慣れ、気が抜けきっていたのです。恥を忍んで申し上げるには、お酒の始末にかまけていたといった何とも弁解の余地もない羞恥でございます。私はスプリガンの出身でありますから、体の大きさを多少変化させることが出来ます。私は酔っぱらったあまり、体の大きさを車程度の大きさに変えてしまい公道でうずくまっておりました。たまたま車通りの悪い地域で、時間も深くなっておりましたから何とか事なきを得ました。
すみません。話が大きく逸れたように思われるでしょうが、ここからがこの手紙の本題なのでございます。この生き恥なる出来事に桜田様が関わっていらっしゃるのです。桜田様は大いに酔っぱらっていらっしゃいましたからそのことについて覚えていらっしゃらないかもしれません。誠に勝手ながら、そのことについて多少書かせていただきますので、ご助力になれば幸いです。
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