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晴臣がドアに向かって聞くに堪えない罵詈雑言を浴びせている一方。
「千歳ちゃん…世界で一番、宇宙で一番綺麗だよおぉ。生まれたときは、お猿さんみたいだったのに…」
お父さんはすっかり自分の世界に入り、跪いて私を拝みながら、涙を流している。
…何?この混沌。
「それでも可愛くて可愛くて…どうせお嫁にやるなら私の認めた男にと…いや、そもそもお嫁に出したくなくて。実家が近くて次男の晴臣と婚約者にさせたんだった。それなのに、それなのに…」
お父さんの、殺気のこもった視線の矛先が自分だと気づいた晴臣が、ピタリと喚くのを止め、そっとこちらを振り返る。
「結局お嫁にもらわれちゃうし?上場企業のLotusの社長にしてはささやかで慎ましい夢も打ち砕かれちゃうし?恩を仇で返すってこういうことだよね?ね??」
「ほんと、申し訳ありません。でも…」
晴臣は、気まずそうな声で謝った後、頭を上げ、お父さんを真っ直ぐ見た。
「おじさんより千歳のこと大事に思ってる人間、世界中探しても俺以外にいないんで」
「……知ってるよ」
初めて見るお父さんの呆れたような、淋しげな笑顔に、不覚にもまた涙が溢れてしまった。
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