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戻ってきた松本さんに、ちょっと怒られつつメイク直しとベールセットをしてもらったタイミングで、式場のスタッフが挙式の開始を知らせに来た。
「じゃあ、俺、先に行ってるから。コケるなよ」
晴臣と入れ替わりでお母さんが合流し、親子三人でヴァージンロードへ続くドアの前に向かう。
ドアが開き、ベールダウンのために軽く屈むと、ずっと黙っていたお母さんが口を開いた。
「一人娘だから、ずいぶん甘やかしたし、その分過保護で、色々と窮屈だったかもしれないけど。これからは晴臣くんと幸せになってね。ずっと、愛してるわ」
今まで一度も見たことのないお母さんの泣き顔は、ベールと涙に遮られ、やっぱり見えなかった。
名残惜さを感じながらも、ブーケを手に父と歩き出せば、エスコートは意外にも完璧で。
私の歩幅に合わせ、ゆっくりと晴臣のところまで導いていく。
「…ありがとう、お父さん」
これまでの感謝を込めて伝えると、父はその場に崩れ落ちるようにして私を晴臣に託した。
そして私は晴臣と、未来に向かって歩き出し、永遠を誓って口づけた。
───そこまでは、良かった。
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