Episode3. 深夜の映画館と恋の予感

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Episode3. 深夜の映画館と恋の予感

俺は一人で映画を観に行くことが好きだ。暇があれば深夜の映画館に行く。でも、今日は彼女が一緒に観にくるという。 もちろん人目についてはまずいので、隣同士の席を予約して一緒に観るだけ。入退出は別にする。俺の経験がないのを良いことに、舞は「私がデート気分を味あわせてあげる!」と乗り気だ。 初めて会ったときは、とにかく美人だと思った。この業界は美人が多い。ただ彼女の綺麗さは、明るく振舞おうとしているだけでなく、どこか寂しそうに遠くを見つめる時があった。その姿にグッと胸を掴まれてしまったのは嘘ではない。 すぐに彼女には意中の男がいることが分かった。それが彼女の儚げな表情を引きだすのかと腹立たしくもあったが、そもそも結婚を約束した男がすでに子持ちの父になっていたなんて。どこに惹かれ続けるのか。ますます女という生き物がわからない。 俺の方が幸せにできるのではないか。今まで女に興味なんてなかったのに、ここまで考えてしまう自分に驚いている。母親が小5の頃に家を出て以来、女を好きになることはないと思っていた。 新宿の映画館の月曜レイトショーは穴場だ。周りはカップルだらけなのでほぼバレない。「先に入っているね」とメールが来て、「了解」とだけ返す。 映画が始まると、すでに彼女は座っていた。まるで他人行儀だ。俺もたまたま隣にいたという雰囲気にするために、無言で座った。 彼女が観たいと言っていたアニメーション映画。今までずっと一人で観ていたから、知り合いが隣にいることが気になって仕方がない。それが彼女だから尚更なのか。中身が全く入ってこない。デートってこういうことなのだろうか。後半になり彼女がすすり泣く音が聞こえた。 あまりに泣いている舞に、気がつけば彼女の手を取って自分のジャケットのポッケに入れていた。舞も驚いただろうが、もちろん顔は見えない。 仕事でラブシーンもやるので緊張はしないが、演技がない状態で自分から触れたのは、初めてだ。一応、泣き止んだようだ。小さな手。温かいぬくもり。彼女も小さくきゅっと握り返してきた。 映画が終わる直前に、すっとポケットからすり抜けていく手。思わず、再び掴みそうになるのをぐっとこらえた。映画が終わると同時に立ち上がると、足早に去りタクシーに乗り込みそのままマンションに戻る。しかし、どうしてもあの手の感触を忘れられず、俺はタクシーの中で「家来いよ」とラインを送った。今日は、家に来る日ではないのに。 俺ってこんなキャラだったか?年上の女性に向かって。なぜか彼女の前では強がりたくなる。きっと相手の男に負けたくない、そんな気持ちなのだろうか。 「わかった」と返事が来た。 そしてそんなに時間も経たないうちに、「来たよー」と舞が家に入って来た。 「おお、今日はどうも」 なんだこれ。俺もキャラがおかしくなっていないか?彼女も小さく笑った。 「な、なんだよ」 「いえいえ。映画良かったね」 「ああ、良かったな。途中から泣きすぎだから」 「ごめんごめん。でも、、、助かったよ」 手を繋いでくれて。と言いたかったのだと思う。 もう自分のキャラがわからなくなっていた。気がつけば、舞をぎゅっと抱きしめていた。 「え、優樹くん、どうしたの?」 少し戸惑う彼女の問いかけにも答えられず、ただ力を強める。そして、思ってもいないことが口からほとばしる。  「いや、なんかかわいそうな女だなぁ、って思って」 「うそ、ひどーい」と答える舞は、抱きしめられたことを拒まず、そして全く傷ついている素振りもなかった。 調子に乗った俺はそのまま、「で、恋人気分は味わえた?」と聞いてみる。 「あ、うん、憧れていたデート通りできたよ!ありがとう〜」と嬉しそうに話すが、きっと舞がデートしたかった相手は、俺じゃない。自分で聞いたことなのに、妙な虚しさを感じてしまった。 自分が求められていないのではないか。そんな風に考えるほど、衝動は抑えられなかった。「今の彼氏は俺だよね?今日泊まっていきなよ」 そう言ってキスをして、そのままベッドに連れて行く。舞は驚いていたが、今日は自分のものにしたくて仕方が無いのだ。 この時点で、俺は気がつかなかったがこれを一般的に「恋」と呼ぶらしい。
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