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「あ、すみません。
出てくださ……」
と言いかけて、いや、出ちゃ、駄目っ、と思う。
家の電話にかけてくるのは、家族か、この番号を連絡先として書いている会社関係の人だけだからだ。
待ったーっ、と思ったときには、秀人は、
「はい」
と出ていた。
ひーっ、と既に頭の中では、父親に、何故、一人暮しの家に男を上げるのかと説教されていたのだが、秀人は受話器を持ったまま無言だった。
「かっ、貸してくださいっ」
と慌てて取ろうとすると、秀人は、
「明日香、無言電話だ」
と言ってくる。
「貴方が無言電話になってますよっ?」
秀人がしゃべらないから、相手も黙っているだけ、という希望にすがろうとしたが。
父親か母親が、娘の部屋にかけたら、男が出たショックで固まっている可能性も高いと思っていた。
だが、明日香が、
「もしも……」
と言いかけたとき、
『調子に乗るなっ』
と鼓膜がしびれるような声がして、電話は切れた。
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