ピンポンが鳴りません……

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   ……ピンポンが鳴りません。  いや、鳴らなくてもいいんですけど。  別に毎晩、出会おうとか約束してるわけじゃないですから。  一度別れたんですしね、ええ。  いいんです、別に、と思いながら、明日香はもう風呂にも入ったのに落とさずにいた化粧を落とすかどうか、洗面所で迷っていた。  鏡の中の自分は、化粧しているのに、どす黒い顔色をしている。  なにかが憑いている人のようだ……と思ったせいか、後ろのタンスの上から女の霊っぽいものがだらりと手を下げているように見え、びくっ、と振り返ってしまう。  だが、それは、畳んだはずの黒いパーカーの片袖が垂れ下がっていただけだった。  間抜けだ……と思いながら、畳み直す。  
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