彫像と海に行きました

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 じゃあ、この人が、廣田さんや如月先輩みたいに、普通に格好いい程度の人だったら、私は最初からときめいていたのだろうか、とちょっと考えてしまっている間にも、秀人は黙々と水をくみ上げては運んでいた。  なにもしないのも悪いので、ずっと後ろをついて歩いていた。  いや、ついて歩いたところで、やはり、なにも出来てはいないのだが――。  何度も水をくんではタンクに入れ、また新しいタンクの蓋を開ける秀人を見ながら、思わず呟く。 「なにかの苦行みたいですね。  ほら、何度くんでも柄杓に穴が空いてるので、たまらないってやつ」 「それ、船幽霊だろ」  怖い話で、苦行じゃないぞ、と言われてしまう。  海で幽霊に柄杓を寄越せと言われたら、底に穴の空いたのを渡さないと、船に水を入れられて沈められていしまうという怖い話だ。 「苦行は違う話だろ。  それだと、幽霊が苦行させられてるみたいじゃないか」 と言われ、ははは、と笑う。  なんか、この人と居て、ようやく普通に笑えたな、と思っていた。
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