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お兄ちゃんの目が大きく開いた。
「あなたにしか守れないものがあるのに、このまま消えるなんて許さない!」
榊さんの悲痛な叫び声。
いつからか過剰な思いに気づいてた。
溢れて歪む視界の中、お兄ちゃんがわたしを引き寄せた。
「……伝えることは許されないと思ってた……一生」
耳にお兄ちゃんの声。
胸が苦しくて張り裂けそうになる。
「……俺は兄としてじゃなく……舞花、おまえを」
触れる。
耳元から離れたくちびるがわたしのくちびるに。
掠めるように触れたくちびるは緩んだ腕と一緒に落ちた。
「……お兄ちゃん?」
力が抜けて目を閉じたお兄ちゃんはわたしの膝の上で動かなくなった。
こんなのウソ、悪い夢に決まってる。
夢なら醒めて今すぐ―――
「誰か!救急車をっ!!」
「舞花さん、しっかりしてくださいっ!!」
わたしが殺した。
車の前に飛び出さなければお兄ちゃんは死なずにすんだ……
わたしが、お兄ちゃんを死なせた。
「舞花さんっ!?」
もう離れないからずっと。
お兄ちゃんの上で静かに目を閉じた。
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