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遠くから医師が走ってくるのを誰かが止める声が微かに聞こえた。
誰も来ない。大神さんが止めてくれてると、今ならわかる。
「……お願い、ひとりにしないでっ」
突き上げた胸の痛みと熱く燃える目から止めどなく涙が溢れ落ちる。
重ねたくちびるは冷たいまま。
モニターが危険な点滅を繰り返して、ひとつ、ふたつと赤く塗りつぶされく。
「……わたし、ずっとずっとお兄ちゃんが好きだったの」
もう届かないかもしれない。
届かなかったら、届けに行く。
ひとりで苦しまなくていいよ。わたしもその時は一緒に苦しみを背負うから。
「…これからだって…ずっとずっと好き」
死なないで、お願い。
ぴくっ
指先が動いた。お兄ちゃんの右手。
ゆっくりと持ち上がりはわたしの体を引き寄せた。
「……舞花」
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