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 金曜日の授業が終わった。  集めたプリントを提出し、委員長としての仕事を終えると僕は五組の中をのぞいた。  今日の朝、いつものように笑香を家まで迎えに行くと、出て来た笑香のおばさんにすでに登校したことを告げられた。さわがしくしゃべる女子達の奥で笑香は自席に腰をかけ、ただ頬杖をついていた。午後の日差しが逆光になり、その表情は読み取れない。  笑香らしくない。  僕は思って肩をすくめた。当たり前だ。普段通りに友達と話をしているわけがない。 「笑香」  教室の外から声をかける。  振り返り、笑香は露骨に表情をこわばらせた。のろのろとその場から立ち上がり、重い足取りでそばに来る。 「何なの?」  僕は笑顔で問いに答えた。 「授業、終わったんだろ? 一緒に帰らないか」 「……」  笑香はきつく唇を噛んだ。昨夜は眠れなかったのだろう、充血した目が痛々しい。  何か言おうと、ためらいがちに笑香がその口を開いた。だが、その時。 「柿崎さん、迎えに来たよ」  明るく太い声が響いて、笑香の言葉は散ってしまった。  僕は眉間にしわをよせた。  この不愉快な声は新保だ。 「笑香。何してるの?」  ショートカットの大西(おおにし)美優(みゆ)が、僕達の間に顔を出す。 「あ、やっぱり水嶋君も誘うことにしたんでしょ? ねえ、一緒に映画見に行こうよ。新しくできた駅前のシネコン、すっごくきれいなんだって」  どんぐり眼をくりくり動かし、いたずらっぽく大西は言った。  大西は僕や笑香と同じ中学校の出身で、この高校では僕と同様、一組に席を置いている。親友である笑香とは中一からのつきあいだ。その大西の後ろには、僕より頭一つ分も背の高い新保が照れた様子で立っていた。  腹の底にある不愉快を押しつぶし、僕はおだやかな笑顔を作った。 「ああ。先月開館した映画館か。僕、招待券を持ってるけど」  新保と大西は色めきたって、口々に話しかけて来た。 「ならちょうどいいな。水嶋に頼むか」 「ねえ、やっぱり一緒に行こうよ」 「──悪いんだけど」  ぴたりと言葉を止めた二人に、僕はにっこり笑って言った。 「家にあるんだ。いったん取りにもどらないと……だから、日曜日に改めて遊びに行かないか」  二人の反応は言うまでもなかった。  さっそく計画を立て始める二人に後を任せると、僕は笑香にささやいた。 「後で。また連絡する」  笑香が不安げな表情で僕と二人を見比べる。  僕はかまわず手を振って、笑香に背を向け歩き出した。
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