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 笑香の家族といつものようになごやかな夕食をすませた後、僕はノートを貸すという名目で、笑香と笑香の部屋に行った。  食事の際、笑香はいつもよりずいぶん口数が少なかった。しかし、勇人がはしゃいだために特に不審には思われなかった。  笑香について部屋に入ると、僕はベッドに腰かけた。白とオレンジで統一された女の子らしいこの部屋は、あいかわらずかわいい雑貨と観葉植物が並んでいる。 「ベッドカバー、変えたんだ。もう夏だからね」  言いながら、僕は手近なクッションを手に取った。無言で立つ笑香を見上げ、にっこりと微笑んで見せる。 「どうしたんだ? 座らないのか?」  笑香は黙ってベッドの脇にあるミニテーブルの前に座った。 「そんなところじゃなくて、ここに座れよ」  僕は自分の横を示した。  笑香はかたい表情で、僕と距離を置いてベッドに座った。 「……何考えてるの」  低い声音で問いかけて来る。僕は笑みを含んで答えた。 「君の事に決まってるだろ」 「からかわないで。あなたは一体何がしたいの!?」  声を荒げる笑香の様子に、僕は軽く肩をすくめた。 「声が大きい。おばさん達におかしく思われるぞ。今まで一度もケンカなんてしたことがなかったのに」 「あなたが……!」  そう言いかけて次の句をのみ込む。笑香はふいと顔をそむけた。怒りを抑えるその横顔が、僕の嗜虐性を刺激する。  笑香のこんな表情を目にすることは初めてだ。僕は淫靡な情動がじわりとわき上がるのを感じた。 「それなら君は何が聞きたいんだ? 僕のことか、それともこれからのことか?」  僕がおだやかにたずねると、笑香は口元を引き結んだ。しばしの沈黙を置いた後、抑えた声で問いかける。 「今日の映画の話、どうして断らなかったの」  僕は唇に笑みを浮かべた。 「新保に僕達のことをわからせる、いい機会だと思ってね」  それだけ言うと、逆に冷ややかな声でたずね返した。 「どうして新保にさそわれたことを、先に僕に言っておかなかったんだ?」
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