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 笑香は僕の顔を見た。優しかったはずの僕から初めて放たれた冷酷な視線。有無を言わせぬ迫力に、気圧されたように僕を見つめる。 「今日……休み時間に、急に美優に言われて……新保君も一緒にって」  そうか。  僕は舌打ちをした。紹介を僕に断られて、今度は大西に頼んだのか。思ったよりもしつこいな。 「大西は新保を何て言ってた?」 「別に……。映画を見に行くのに、三人じゃおかしいからもう一人誘おうよって……」  そこまで言って、不意にうつむく。 「美優はもう、私達がつきあってるんだと思ってるみたい」  僕はわずかに目をすがめた。笑香は小さく言葉を続けた。 「昨日たまたま手をつないで歩いてる所を見られたみたいで……ちゃんとみんなに言った方がいいって」  なるほどな。僕はひそかにほくそ笑んだ。そこまでお膳立てされているなら、ますます好都合だ。 「いい友達を持ったね」  笑顔で言うと、笑香は僕をにらみつけた。僕はさりげなく腕をのばすと、笑香のそばに身をよせた。 「それなら、ありがたくその機会を利用させてもらおうか。僕がわざわざ工作しなくても、まわりから円満に仲を認めてもらえそうだ。やっぱり日頃の行いが大事だね」  近づいて来る僕の体に、笑香が大きく目を開く。 「な……何を」 「僕達はもうつきあってるんだろ? 少し健全な交際を進めようかと思って」  さらに笑香との距離をちぢめる。  僕が笑香の背中にふれると、笑香は肩を硬直させた。 「し、しろうく」 「大丈夫だよ。絶対に君を妊娠させるような失敗はしない。僕達は大学を卒業した後、まわりに祝福されながら幸せに結婚するんだ。それまではきっちり避妊するさ」  笑香の顔をのぞき込む。その顔色は青ざめていた。 「な……」  隠しきれない動揺にそのつややかな唇が開く。僕はかまわず顔をよせ、笑香の頬に唇を押しつけた。  はじめは軽く、そして強く。笑香の背中が大きく震える。  そっと自分の唇を離すと僕は耳元でささやいた。 「ずっと、夢に見てたんだ」  笑香の甘い髪の香り。こんなに近くで嗅ぐのは初めてだ。 「ずっと君にこうしたかった」  もう一度、今度は形の良い耳にキスをする。笑香は固く目を閉じた。長いまつげがぬれている。  笑香の腰に腕を回して、僕はそのままゆっくりと自分の体重をかけた。 「──え」  ただ目を閉じて耐えていた笑香がはじかれたように僕を見る。 押し返そうとする手を捕らえ、僕は笑香をベッドに押し倒した。 「ま……待って史郎君、ここは……!」
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