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なんだって?
心中の動揺を押し隠しながら会話に耳をそばだてる。だがそんなことをしなくても、まるで追い討ちをかけるように大西が僕に向き直った。
「水嶋君、笑香をしっかり捕まえておかなきゃだめよ。これでけっこうもてるんだから。いくらつきあいの長い幼なじみだからって、ぼやっとしてると他の人に取られちゃうかもしれないよ」
はりついた僕の微笑みに笑香だけは気がついたらしい。親切をかさに着た親友の放言に笑香は表情をこわばらせていた。
「み──美優、もういいから」
「わかった。よく覚えておくよ」
表面上の冷静を保ち、僕はにこやかに笑って見せた。
「新保達には悪いけど、僕は誰にも笑香を渡すつもりはないよ」
「うらやましいー! 彼氏にそこまで言わせるなんて。笑香、ほんとに水嶋君が幼なじみでよかったね」
ひじの先で笑香をこづくと、大西は感動したように胸の前で両手を組んだ。
「いいなあ。私もそんなことを言ってくれる彼氏が欲しい」
笑香があいまいな笑みを浮かべる。僕は口元をほころばせた。
食事が終わると、やはりショックだったのだろう、新保は早々に帰ると言い出した。それにあわせて大西も帰り支度を始める。
「えっ、ちょっと。これからいっしょに買い物に行くって……」
笑香が大西を引きとめると、大西は軽く首をすくめた。
「嫌よ。つきあい始めのカップルの邪魔なんかしたくないもん。そこまでずうずうしくないし、第一のろけられるだけだし」
そこまで言って、まるで思い出したかのように笑香へと顔を近づける。
「笑香。後でちゃんと私にも最初から報告しなさいね」
言い置いてさっさと席を立つ。すでに僕達に背を向けている新保の姿を追い立てて、あっさり店から出て行ってしまった。
その場に残された笑香と僕は、しばらく無言でテーブル上の飲物を見ていた。
僕は静かな声でたずねた。
「今の大西の話は本当?」
「話……?」
眉をよせ、はっと思い出したように笑香が唇を噛みしめる。
「そんな、別に……。一度美優につきあってテニス部の練習を見に行った時、ちょっと説明してくれた先輩が、後でラインの交換してくれって……それだけ」
そうか。僕は内心でほぞを噛んだ。
放課後、笑香が大西と部活を見学していたことは知っていた。だがそういえばめずらしく笑香がそのことを口にしなかったのは、そんな理由があったのか。
いつものおだやかな調子を崩さず、僕は笑香をうながした。
「それで? どうしたんだ?」
顔を上げ、笑香は必死の声で言った。
「本当にそれだけよ。私はもともと入る気は無かったし。だから……」
「しつこくからまれたのか?」
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