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「うれしいよ。ありがとう」  僕の素直な喜びの声に、笑香は満足げな顔をした。  僕は言った。 「だったら僕も持ってくればよかった。君へのクリスマスプレゼント、僕も用意してたのに」  あの日、病室で迎えたクリスマスイブは、ただ生きていた笑香に再び会えたことがうれしくて、準備していたプレゼントのことなど思い出しもしなかったのだ。 「え? 史郎君も何か用意してくれたの?」  僕を見上げた笑香の顔に唇の端を引き下げる。 「当たり前だろ。言ってくれれば、すぐに渡せたんだ。ディズニーランドのペアチケット、本当は冬休み中に一緒に行こうと思ってたのに」 「え、本当に!?」  きゃあきゃあと歓声を上げる笑香に僕は思わず感心した。やっぱり女の子はそういうものを喜ぶのか。 「アクセサリーとか、僕にはよくわからないし。湯浅さんに相談したら、二人でどこかに出かけた方が女の子は喜ぶよって言われて。……冬休みじゃなくて春休みになると思うけど」  湯浅さんはそういうところにはよく気がつくのに、何でもてないんだろう。 「春休みの方がいいの。だって美優にもお土産渡せるし」  笑香の満面の笑顔に僕は含みを持たせて言った。 「勇人も一緒に連れて行くか? サッカーの試合、すっぽかしたしな」 「絶対に嫌」  大きく首を横に振る笑香に僕は笑った。やっぱり、この姉弟は意外なところでよく似ている。 「それから、この写真。私も今、同じものを机の上にかざってあるの」  笑香に渡されたもう一つの品物は、僕と笑香の写真が入った透明な写真立てだった。  無印っぽいシンプルなケースを僕はじっと見て言った。 「……データは?」  僕の言葉に笑香は肩をすくめた。 「あげない。なんとなく、その方がいいような気がするから」  僕は大きくため息をついた。何も言えずに自分のカバンに全てのプレゼントをしまい込む。  その後改めて家の中を物色し、おばさんや勇人に頼まれたものを探して用事を済ませると、僕達は笑香の家を出た。  今度は僕の家の前に立つ。気のせいか、僕が住んでいた家の方が、笑香の家の外装よりも黒くすすけているように見える。  僕は自分の胸の動悸が激しくなるのを感じていた。  湯浅さんに連れられて、あの後何度か僕もこの家を訪れていたのだが、どうしても自分の足がすくんで中に入ることができなかったのだ。  僕が母さんをここで失い、笑香をも失いかけたこと。家の中に入ろうとするとそれらを同時に思い出し、結局引っ越しの準備の際、僕は外から依頼した業者と湯浅さんに指図して、自分の荷物を出してもらった。 「怖い?」  隣の笑香に問われ、僕は微笑んだ。 「うん。──でも、大丈夫だ。君がいるから」  そうだ。今、君はここにいる。  僕は自分の家の鍵を開けた。
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