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6.
次の日、僕は学校を休んだ。ぬれたままソファでうたたねし、どうやら風邪をひいたらしい。
体がだるくて熱を測ると三十八度を超えていた。担任にそう伝えると、くどいくらいに心配されてうんざりしながら電話を切った。
熱を出して寝込むなんて小学生の時以来だ。
解熱剤を飲んで横になる。昔、風邪をひいた時、笑香がわざわざおばさんに習って生米からおかゆを作ってくれた。だが肝心の米が生煮えで、僕は風邪の高熱の上に腹まで下してしまったのだ。
当時のことを思い出し、僕は思わずくすくすと笑った。あの時の笑香のしょげ返る顔は本当にかわいくて、逆に幸せな気持ちになって病床についていたような気がする。
少し眠ってまぶたを開く。僕が着ていたTシャツは汗でびっしょりになっていた。シャツを着替えて何か飲もうと一階のキッチンへ向かう。
もう四時か。
玄関にある置き時計で今の時刻を確認すると、待っていたようにチャイムが鳴った。僕はだるい体をおして玄関へ足を進めた。インターホンをのぞいてため息をつく。門からこちらを眺めていたのは制服姿の新保だった。
「新保、どうしたんだ?」
僕はかすれた声でたずねた。水分が無くて喉がひりつく。そういえば、以前何かの拍子に新保に家を教えた気がする。だが、いったい何の用で?
『ごめん。具合が悪そうだな』
インターホンから返事がもどった。
『真下に言われて持って来たんだ。生徒会の、所信表明用の原稿だって』
僕は小さく舌打ちした。頼りにならない担任のあいまいな笑顔を思い出す。
明日でいいと言ったのに。
「わかった。入ってくれ」
仕方なく玄関の鍵を開けると、きょろきょろと物珍しそうな顔で新保が中に入ってきた。僕は分厚い原稿の束をげんなりしながら受け取った。
「あれ? お前一人なのか?」
新保が細い目を丸くする。
「父親は単身赴任。母親は八年前に死んだよ」
僕が答えると、新保は恐縮した顔で大きな体をちぢめて言った。
「ごめん。悪いことを聞いたな」
「べつに、慣れてる」
そっけない僕の返答に新保はますます肩を小さくした。
「じゃ、早く治せよ」
新保は言って、僕に広い背中を向けた。扉に手をかけ、ふと思いついたように振り返る。
「あの後何かあったのか?」
僕は露骨に眉をしかめた。
「どういう意味だ?」
「いや、昨日は、特に具合は悪くなさそうだったから……」
「雨にぬれたせいだよ」
僕はさらにそっけなく答えた。嘘ではなく、先ほどから寒気がひどい。
「そうか。じゃ、な」
新保は軽く頭をかくと、今度こそ玄関のドアを閉めた。
僕はのろのろとキッチンに向かい、冷蔵庫の扉を開けるとむさぼるようにミネラルウォーターを飲んだ。
寒い。
進まない足を引きずりながら階段を上って部屋に入る。そのままベッドへ倒れこみ、意識を失うように眠りについた。
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