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「入れるよ」
僕は低く言い置いて、笑香の上にのしかかった。笑香の両膝を大きく割って太腿の間に腰を入れる。
潤んだような双眸で笑香が僕を見上げて来た。そり返った僕の物が、笑香の太腿の奥に当たる。
その時。
僕は初めて、あの、自分が笑香を奪った夏の夜のことを思い出した。
そうだ。……あの時と同じだ。
そう考えたとたんに僕は、自分の頭の中が真っ白になっていくのを感じ取った。
叩きつけるような雨の中、暗い教室の床の上で僕は笑香にのしかかった。なめらかに続く白い肌の上を僕の手のひらがはい回る。赤く感じる視界の中で、闇に浮かんだ肢体をむさぼる。
思う存分自分の興味を笑香の体で試した後、僕は大きく足を開かせた。猛り立つ自身の切っ先をつけ根の奥に押し当てて、力を込めて突き入れる。
体の中を引き裂く凶器に笑香は絶望のまなざしを見開き、その背中を硬直させた。
どうして今まで、僕は忘れていたのだろう。
「──できない」
あえぐようにつぶやいた僕に、笑香が大きく目を開く。
僕はがっくりと首を垂れ、すすり泣きながらつぶやいた。
「できないよ。だって、あの時と同じなんだ。僕は君を床に押し倒した後、服を破るみたいに脱がせて、それから──」
僕は心とは裏腹に、激しく屹立したままの自分の体を嫌悪した。こんな体、誰にも見られたくない。
「それから、僕は、君の」
そこまで僕が言った時、笑香の白い指先がそっと僕の唇にふれた。そして笑香の顔が次第に僕の方へと近づいて来る。
僕は自身を切り刻む呪詛が、笑香の柔らかい唇でふさがれてしまったことを知った。
「……大丈夫」
唇を離した後で、笑香はいつもの笑顔を見せた。
「私は史郎君が好きよ。今の史郎君が好きなの。だから大丈夫。史郎君の好きにして」
笑香。
「──君を、壊しちゃうよ」
僕は涙声でつぶやいた。悪夢の中で僕が確信した、母から引き継いだ破壊性。僕や父親を壊しかけ、ついにはおじさんを壊してしまったあの母親に、僕はそっくりだ。
「史郎君になら、壊されてもいいよ」
きっぱりと言い切られた言葉に、僕はこれ以上ないくらいに大きく両目を見開いた。笑香の右手が首筋に回る。僕の体を自分に引きよせ、笑香が口づけを求めて来る。
僕は震える唇で笑香の唇に口づけた。
笑香は、僕から逃げなかった。
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