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息づまるような黒い闇。
周囲から壁が押しせまって来るような、まったく逃げ場のない空間。
………──さん!
それまでじっとおびえながらもしゃがみ込んでいた僕は、ついに耐えきれなくなって叫んだ。
──さん、ごめんなさい! ごめんなさい、ごめんなさい!
それは絶望的な沈黙だった。息苦しさはさらに増し、僕は半狂乱になる。無情に閉じられたドアを押し、つるつるすべる床を蹴っては恐怖にドアを打ちつける。
──さん、ごめんなさい! ゆるして、だして! ごめんなさい‼
誰も僕を助けてはくれない。
自分の漏らした尿の匂いに僕は閉じ込められていた。
*
高熱のせいだろうか。夢にうなされてまぶたを開くとあたりは暗くなっていた。
僕はゆっくり起き上がった。頭から水をかぶったように全身に汗をかいている。しかしそのためか先ほどよりも少し体が楽だった。
着ていたものをすべて着替えて、僕はもう一度水を飲むために自分の部屋のドアを開けた。そして一階に明かりがついていることに気がつく。
僕は静かに階段を降りた。そっとキッチンの扉を開く。すると、何かがが煮えるような柔らかい匂いがただよっていた。その匂いに刺激され、僕は自分が空腹であることを知った。
「目が覚めた?」
レンジ台の前に立っていたのは、エプロン姿の笑香だった。
「さっきのぞいたらよく寝てたみたいだったから。もうすぐおかゆができるから、部屋にもどってちょっと待ってて」
「水をくれ」
僕が言うと、笑香は少し顔を上げ、おたまで冷蔵庫を指し示した。
「ポカリがあるから持って行って。二本買って来たから足りるでしょ?」
僕は黙って冷蔵庫のドアを開けた。二リットル入りのスポーツドリンクのふたをあけ、そのままじかに口をつける。喉を鳴らして一気飲みした。
甘い。
ほどよく冷えた液体は体に染み渡るようだった。
「風邪だって何でわかったんだ?」
口元を拭いてたずねると、笑香は鍋を見ながら答えた。
「美優に聞いたの。史郎君は風邪で学校を休んだって。知らなかったのって言われたわ」
僕はテーブルに視線を落とした。スーパーの袋が置かれ、中から食材がはみ出している。
「おかゆに卵、入れていい? 苦手なのは甘い卵焼きだよね?」
「ああ」
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