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何気ない会話。まるで何事もなかったような、いつもの笑香の後ろ姿。
「ほら。そんな格好でいたら体が冷えるわよ。早く部屋にもどりなさいよ」
再び笑香にうながされ、僕はボトルをラッパ飲みしながら階段を上がって部屋にもどった。布団の中にもぐり込み、幾分上気した頬で笑香の足音が聞こえるのを待つ。
さほど時間がたたないうちにエプロンをつけたままの笑香が僕の部屋のドアを開いた。わざわざ持って来たらしい盆に、一人用の小さな土鍋とリンゴの皿がのっている。
僕がベッドから起き上がると、笑香はベッドの脇の学習机に盆を置いた。
「ちゃんと上に何か着て」
椅子にかけてあるパーカーを投げてよこす。
盆ごと土鍋を受け取って、僕は土鍋のふたを開けた。白い湯気が立つおかゆの上に、きざんだネギととろりと溶けた半熟卵がのっている。
台所でかいだ同じ匂いが僕の部屋にも広がった。僕は鳴りそうな腹を押さえて、熱い一口を口に含んだ。
「……今日は生じゃないんだな」
僕がそう言うと、笑香は顔を真っ赤にした。
「そんなの昔の話でしょ。別にいいのよ、嫌なら食べなくたって!」
「うまいよ」
僕はぽつりと答えた。実際笑香がこんなに料理ができると思わなかった。いつの間に覚えたんだろう。
あっという間におかゆを食べつくし、僕は隣の皿に乗せられたリンゴの一切れを手に取った。ふと気がついて、椅子に座って僕を見ている笑香にたずねる。
「笑香は食べないのか?」
「だって私は食べて来たもの。今何時だと思ってるの?」
その言葉に枕元の時計を見る。すでに時刻は九時を回っていた。
「食べたらちゃんと薬を飲んで。……おかゆがお鍋にまだあるから、明日温め直して食べれば」
笑香はぶっきらぼうに言い、盆の上に薬をのせた。うちにあったのとは違う薬だ。わざわざ買って来たらしい。
「心配してくれるのか」
くすりと笑ってたずねると、笑香ははじかれたように立ち上がった。
「心配なんかしてないわよ。誰があんたなんか……!」
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