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 そっぽを向いてドアへ歩き出そうとする。  僕はとっさにその手をつかんだ。 「待てよ」  自分でもわかる、切羽つまった声。膝の上にのせた盆が、リンゴや空の土鍋ごと部屋の絨毯に転がり落ちた。 「まだ帰るなよ」  笑香は無言で僕を見つめた。しばらく沈黙が続いた後、笑香はそのまますとんと元の椅子に座った。 「手。離してよ」  つぶやくような低い声。  僕は間髪を入れず答えた。 「嫌だ」 「……!」  笑香は強引に僕の手を振りほどいた。まるで汚れをぬぐうかのように僕がつかんだ箇所をなでる。 「今日は新保に会ったのか」  僕がたずねると、笑香は頬をゆがませた。 「私が誰と会ったって、何を話したっていいでしょう。あなたは一生そうやって私を見張ってるつもり?」 「会ったんだな」  低い声音で念を押す。  笑香は一瞬泣き出しそうな表情を作った。 「私が言うことなんて、はじめから聞く気がないのね」  再び重い沈黙が落ちた。笑香がすっくと立ち上がる。 「──待てよ」 「帰る!」 「待てってば‼」  怒鳴り合うように対峙した後、僕は唐突に咳込んだ。笑香の気配が遠ざかる。  僕は肩を震わせて咳をした。喉にからんだ痰が苦しい。  ふわり、と甘い匂いがもどった。背中に柔らかい手のひらが当たり、多少乱暴に上下する。発作のような咳がおさまると僕は深く息をついた。目の前に水の入ったコップが差し出される。  僕は一気にそれを飲み干した。 「……ありがとう」  かすれ声で僕がつぶやくと、頭の上から小さな声が落ちて来た。 「本当は、冗談なんでしょう?」  痛みをこらえているかのような、せき上げるようなかすかな声。 「あの史郎君がこんなひどいこと言うなんて。──本当は嘘なんでしょう? 私をおどかすための……」  祈りにも似た響きの言葉。  コップを毛布の横に置く。僕は顔を上げ、にやりと笑った。 「本当にそう思うか?」  悪魔的な衝動が僕の体を突き動かす。笑香の右手をつかんで引きよせ、僕は無理やり自分の股間に押しつけた。  僕のシロモノは屹立し、今にもはちきれんばかりだった。笑香は悲鳴を上げて手を引いた。 「もう、やだ‼」  叫んで僕の部屋から飛び出る。僕は残された手の感触に、低くうめいて自分のものを握りしめた。服の上からこすり上げ、あっという間にそのままぶちまける。  耳に残った悲鳴は涙声だった。
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