2人が本棚に入れています
本棚に追加
/4ページ
男はとっさに人間に化けている狸を庇おうとしたが、それよりも早く狸が男の前に飛び出る。
その瞬間、かろうじて人間に化けていた狸はぽんっと元の狸の姿に戻った。
「どうか、この人を傷つけないでください……!私の正体は狸です。
この男に化け、あなたをたぶらかしたのは私なのです。だから、どうか、恨みを晴らすのなら、この私に……」
ちっぽけな狸は恐ろしさでぶるぶる震えながらも、男を庇うように両手を広げ、懸命に化け物に訴えかける。
狸は男と化け物の間に何があったのかを知る由もなかったが、男がどれだけ軽薄な人間であろうと、狸にとっては男は大恩人なのだ。
ひとりぼっちだった自分の話し相手になり、食べ物まで分け与えてくれた人。
自分が死ぬのはもちろん嫌だったが、それ以上に狸は男に死んで欲しくなかったのだ。
化け物は狸をじっと見つめていたが、しばらくすると髪の毛を引きずりながら無言で部屋から出て行った。
ちっぽけな狸の大きな愛に胸を打たれたのか、それとも狸に化かされていたなんて馬鹿馬鹿しいと思ったのか。
化け物の心中は定かではないが、化け物が去ったことに安堵した狸はその場にへたり込んだ。
男は、かつては美しかった女を化け物に変えてしまった自分の軽薄さをいたく恥じると同時に、けなげな狸に感動し、涙を流したという。
最初のコメントを投稿しよう!