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はるか昔より狐や狸は人を化かすと言い伝えられてきたが、それは江戸の時代でも同じことであった。
江戸のいつ頃かは定かではないが、あるところに一匹の狸がいた。
狸は狐よりも人を化かす能力に優れていると伝えられてきたが、その狸は落ちこぼれで、いつまでたっても上手に化けることができないでいる。上手く化けたつもりでも、ある時は狸の耳が出てしまったり、またある時はしっぽが出てしまったり。修行のために人を化かそうとしても、すぐに正体を見破られてしまう。
落ちこぼれ、半人前と仲間からもバカにされ、その狸はいつもひとりぼっちだった。
しかし、落ちこぼれの狸に唯一化かされた男がいる。
男は、人間の娘に化けた狸から出ているしっぽには本当は気がついてはいたが、わざと化かされたふりをしてやり、ひとりぼっちの狸の話し相手になってやった。そして、いつもお腹を空かせている狸におにぎりやさつまつもを分けてやったのだ。
狸は、唯一化かすことができて、食べ物まで分けてくれる男のところに足繁く通い、そのうちに男に恋をしていた。男も自分を慕ってくれる狸を可愛がり、妹のように思っていたという。
しかし、その男は動物には優しかったが、女好きで軽薄なところがあり、既婚未婚問わず数多の女と浮名を流し、そのうちの何人かから恨みを買っていた。
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