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第二章 「水が枯れない街」
それから三週間が過ぎ、二人が目を覚ますと馬車の窓から涼しい風が吹き込んできた。「シュテルン様、ローゼ様。到着でございます」ヴァルムがにっこりと笑って二人に声をかける。
シュテルンが馬車にかかっている布をめくると、太陽の光が降り注いでいるのが見えた。街のあちこちに井戸や噴水があり、かごに入ったリンゴやミカンもきれいに洗われている。
「エス イスト シューン(美しいな)」と彼がつぶやくと、ローゼも「ええ。四季が来るといろいろな種類の花が咲く、私の国を彷彿とさせます」と言った。
「ドナウヴェーレという、キルシェ(サクランボ)とショコラーデ(チョコレート)が乗った甘いお菓子もあるみたいです。食べてみたいな」「そこにお店と木でできたベンチがあります。買ってみましょう」二人はピンク色の看板が立っている店の前に並ぶ。
10分後、茶髪を首の後ろでまとめた女性店員から紙にくるまれたドナウヴェーレを受け取ってベンチに座った二人は、甘いにおいをかいでからかじる。
「おいしい!初めて食べました」とシュテルンが満面の笑みで言うと、ローゼもうなずく。それからヴァルムが用意してくれた水色のドレスに手を置き、静かに話しはじめた。
「わたくしは幼少期から母の実家であるトゥルぺ城で過ごしましたが、二年前に彼女がヒムメル国王子の後妻となってからは祖父母と過ごすことが多くなりました。気分がすっきりとしない毎日の中で『彼らと離れたい』と思っていたので、昨日の夜城を出たのです。
ヴァッサー国にいたあの男たちに捕らわれている間、死んでしまうのではないかと怖かったです」ローゼはそう言って、大きく息を吐きだした。
シュテルンは静かに彼女の肩に手を置いて、「あなたはとても前向きで、人と関わっていろいろなことを学ぶのを楽しんでいる。おれにはなかなかできないことです」と声をかけた。驚いたローゼのほおが赤くなっている。
シュテルンが小声で笑うと、彼女は「恥ずかしいです」と言って手袋で顔を隠した。
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