1.ドレスの青年

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 居酒屋のアルバイトを終えた私の携帯電話に、珍しくアキちゃんからメールが入った。 『すぐ、来れる?』  同棲して半年になる私の彼・アキちゃんこと澤口(さわぐち)明慶(アキヨシ)は、いつだって肝心な言葉を端折(はしょ)る癖がある。しかも、鷹揚な彼は『焦る』ということを知らない。 『どこに行けばいいの?』  秒で返した私のメールに、アキちゃんからの再返信が届いたのは、三十分後だった。 『駅前のファミレス』 *  駆けつけて最初に目にしたのは、溶けかけた氷の群れが静かに泳ぐグラスのみ。どこかで電話をかけていたのか、携帯電話をポケットにしまいながら席に着いたアキちゃんは、漂流物を一つ口に放りこむと、舐めるように噛み砕きながら静かに告げた。 「ヨウタ、辞めたって」 「ヨウタ?」  数秒ほど記憶をたどって、思い出す。 「エデンの?」 「そう、エデンの」 ━━ヨウタ・辞めた・エデン。  三つのワードを忙しく繋ぎ合わせようとする私を放って、アキちゃんは鼻歌混じりにドリンクバーへと向かう。ジンジャエールを注ぐ彼の横顔を遠目に見つめながら、私はヨウタと初めて会った日のことを反芻し始めた。
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