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居酒屋のアルバイトを終えた私の携帯電話に、珍しくアキちゃんからメールが入った。
『すぐ、来れる?』
同棲して半年になる私の彼・アキちゃんこと澤口明慶は、いつだって肝心な言葉を端折る癖がある。しかも、鷹揚な彼は『焦る』ということを知らない。
『どこに行けばいいの?』
秒で返した私のメールに、アキちゃんからの再返信が届いたのは、三十分後だった。
『駅前のファミレス』
*
駆けつけて最初に目にしたのは、溶けかけた氷の群れが静かに泳ぐグラスのみ。どこかで電話をかけていたのか、携帯電話をポケットにしまいながら席に着いたアキちゃんは、漂流物を一つ口に放りこむと、舐めるように噛み砕きながら静かに告げた。
「ヨウタ、辞めたって」
「ヨウタ?」
数秒ほど記憶をたどって、思い出す。
「エデンの?」
「そう、エデンの」
━━ヨウタ・辞めた・エデン。
三つのワードを忙しく繋ぎ合わせようとする私を放って、アキちゃんは鼻歌混じりにドリンクバーへと向かう。ジンジャエールを注ぐ彼の横顔を遠目に見つめながら、私はヨウタと初めて会った日のことを反芻し始めた。
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