1.ドレスの青年

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*  ヨウタを伴って、アキちゃんが私のアルバイト先である居酒屋に現れたのは二週間前。滅多に男友だちとつるむことなどない彼が、「俺の後輩」とヨウタを紹介し、引き合わせたのだ。  二十歳という年齢にしては幼く見えるヨウタは、そのあどけない顔立ちに似合わぬ武勇伝を出会って五秒で披露した。 貸し出しと返却のルーティンだけを覚えればいい深夜帯のレンタルビデオ業務をまるで習得できないばかりか、遅刻と無断欠勤を繰り返し、挙げ句に痺れを切らして説教を始めた店長に向かって逆ギレの啖呵(たんか)を切ったのだと。 「何て言ったの?」 「二度と来るか、ぼったくりビデオ店!」 「……そりゃ、採用一ヶ月でクビになるね」 「でも、お陰で天職に転職できたんすよ」 「え、何。ダジャレ?」  ものの数分のうちに打ち解けた彼は私のツッコミを華麗にスルーし、名前の通り陽気に新しい職場について語り始めた。 「『エデン』、最高っす!」 『エデン』というのは、ホストクラブと居酒屋を足して2で割ったようなボーイズバーらしい。要は、水商売だ。暇を持てあまして繁華街をうろついていたところ、長髪のスカウトマンから声をかけられたのだという。三日目にして古株のような口調を気取るヨウタは、すっかり『エデン』に染まってしまったようだ。 「アキちゃんも『エデン』に来なよ。楽しいし、稼げるから。夜のレンタル屋なんか、エロビデオ目的のおっさんかオタクしか来ないじゃん。『エデン』はいいよぉ、お客も若い女の子ばっかり……」  言わなくてもいいことを口にしてしまった、と気づいたのだろう。分かりやすく「しまった」という表情を見せたかと思うと、ヨウタは私をチラチラと伺い見ながら、悪事をごまかすイタズラ小僧のように不敵な笑みを浮かべた。 「ねえ、カナさんもそう思うでしょ?」 「何が?」 「アキちゃんて、ズバリ見た目がいいじゃないですか。加えて、穏やかな上に聞き上手だし。女にモテる要素が満載って感じ」 「そう?」  彼氏を褒められたのだ、悪い気はしない。けれど、同意するのは身内贔屓な気がして、あえて私は素っ気なく返した。 「そうですよぉ。カナさんは彼女だから、慣れっこかもしれないけど……」
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