残り72時間

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残り72時間

「死ぬのは怖いかい?」  真っ白な空間の中にふわふわと浮かんでいるような感覚、上を向いているのが下を向いているのがわからなかったが、目の前に浮かぶ灰色のモヤのようなものが唐突に聞いてきた。 「あなたはだあれ?」  夢でも見ているのだろうか、学校の帰り道コンビニで消しゴムをひとつ買って出てきたことは覚えている、確かに横断歩道を渡って向かいの本屋に行こうとしていた、白昼夢と言うやつだろうか? 『質問の内容はともかく、子供みたいな声だなぁ。』そう思い聞いてしまった。 「僕は死神、そして君は僕の初めてのターゲット。」  そう言われたが不思議と恐怖感は無く、それどころか、『これが死神なんてイメージとは全然違うけど、これはわたしの想像力が貧困過ぎるせいかしら。』なんて思った。 「ふーん?」 「特に思い残す事が無ければこのまま連れて行くけど?」  連れて行くって何処に?まさかホントに死神?思い残す事って言われても、わたし、まだ16歳ですよ? 「思い残す事があれば?」  いくら夢でも、ここでうっかり『はい』なんて言えません、ホントに死神だったら、わたし、思い残した事だらけだもの。 「72時間だけ猶予をあげよう。」 「優しいのね。」 「なぁに、規定どおりさ。」 「でも何で72時間なの?」 「危篤状態の人間が、自力で生きられる平均的な時間だからさ。」 「これでも研究に基づいた結果、はじき出された時間だ。」  死神も研究するのだろうか、流石に解剖とかはしないよね。 「私、危篤状態なの?」 「いいや、健康そのものだ。」 「じゃあ、わたしは何で死ぬの?」 「端的に言うと、今から交通事故に巻き込まれます。」 「即死です。」 「事故に遭う前に聞いてくれるの?」 「事故に遭った後で、思い残す事が無いかって言われてどうするの?」  質問ばかりだったわたしの質問に質問で返されたけど、ある意味答えのような質問だ、これはわたしの質問が浅はかだった。 「で、どうする?」 「わたしは…思い残す事があるわ。」 「そう、じゃあ戻すけど、72時間後まで今の記憶はなくなるからね。」 「え?」 「いいかい?72時間後に確実に死ぬと分かってて、穏やかに死を受け入れる人間なんて殆ど居ないんだ、自暴自棄になって下手すりゃ他の人間も巻き込んでしまうからね。」 「それって?」 「今まで通り普通の生活を送る、その中で思い残した事をやり遂げて下さい。」 「今まで出来なかったのに、普通に生活してたった3日で?」 「大丈夫、今この時、その思い残した事を強く思えば…。」 「やらなきゃいけない事は心に残るから。」 「じゃあ72時間後にね。」  顔どころか、体も定かではない灰色のモヤは確かに笑った。 「ちょっと待って!まだ聞きたい…こ…と…。」
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