インタビューの続き

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 私は給仕を済ませると兄さん達が食事を始めるのをじーっと息を呑んで見ておりました。すると一人の兄さんが「おや、お前はんは食わへんの?」とおっしゃって、一瞬怪しまれたかとドキっとしましたが、兄さんはすぐに目の前の味噌汁を一口啜りました。「ほう山中、今日の味噌汁はえらい美味しいわ、ようコクが出とる」と。ふふ、それはそうですよね。フグの肝がたっぷり入っているのですから。禁断の味ですよ。よっぽど美味しいのか、兄さん達は一啜り二啜り三啜りともう啜るのが止まらんみたいでした。さあそろそろだろうと、私が舌なめずりをしていましたら、一人の兄さんが「なんか舌がしびれれれてどないしたやろろろか」と言い出しました。すると後は次から次でしたね。皆さんもう口から涎流して。もうですよ。よう喋られんようなって。えっ? 死んだか? そうそこです問題は。五人中、三人の兄さんが……もんどり打って死にかけたんですが、残念、ぎり助かりました。二人は直ぐに回復しまして、ええ、私は人殺しにはならなかったんですよ。あ、斉藤さん、今つまらんみたいな顔されましたね。いえいえ、そう見えましたよ。死んだ方が面白かったでしょうがね。そうです。私は何をしても中途半端な男なんです。女には簡単に手玉に取られるし、復讐も上手く遂げる事が出来ない男です。えっ? ええ、私は性悪女のこいさんに見事に騙されていたんですよ。あれ? どうしたんですか。大して驚かれませんね。驚きましたって? ある意味で? まあ何の事か分かりませんですが。それでですね。はい、保健所も、そうです、警察も来ました。でも私は書類送検で済みました。過失による食中毒。過失傷害です。殺人未遂? いやいや飽くまでも自分は鮟鱇(あんこう)の肝と思っていたと言い張ったんです。「そんな事ありますかいな」と追求されましたが、頑として口を割りませんでした。店側もフグの肝の扱いに多少後ろめたいとこがあって、被害届は出さなかったんです。何せ命知らずの客の要望でたまに肝を提供してたんですから。はい、バレたらお縄です。で、私は京都に別れを告げて博多に戻りました。
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