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まあ一応、中途半端とはいえ少し復讐した気にはなりました。兄さんたちは当然私の事を恐れましたから、それで鉾を収める事にしたのですよ。店からは勿論出て行ってくれと云われました。自分らの目の届かない所に早消えてまえという事です。私は警察の許可が出てからすぐ鈍行列車に飛び乗って博多へ帰りました。京都に来た時と同じように、包丁一本晒に巻いて。
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オッサンはフグ毒の一件を話し終えて心なしかスッキリしたようにも見えた。放免になったとはいえ毒を盛った事は死んだ後でも心に残る重しだったはずだ。普通なら。第三者に重しを吐き出す事で少しは軽くなるんじゃないか。普通なら。しかし五人を毒殺しようなんて、罰を下すにしてもバランスが悪すぎるかとも思うけど。しかし周りがみんなグルだと聞けばしかもこいさんが首謀者と聞けば、山中さんにも同情する余地も無きにしも非ずだ。それでも五人の毒殺を企てるとはな。普通じゃない。
「さて、山中さん」
「なんでしょうか」
「もう一つ、聞きたいことがあるんですけど」
「え? なんですか」
「ちょっと聞きずらい事なんですけどね」
「聞きずらい質問なんて、幽霊相手にありますかね」
「一点なんですが」
「はあ……」
「あのー、山中さんの死についてなんですけど」
「死について」
「ええ」
「それやったら答えは簡単です。時がきたからという事じゃないですか。他にありますかね」
「ああ、でもでも山中さんの場合…」
「あっと斉藤さん。足元がすーすーして来ましたよ。丑四つになるんじゃないですか」
「あっ、本当だ。じゃ山中さん、また必ず来てくださいよ。来週あたりにでも」
「まあ、波長が合えば来れますよ」
「波長?…ですか」
「ええ、すべて波長な・ん……」
ああ、ああ行っちゃった。自殺の件また持ち越しになったなー。でもそれを聞いてしまえば、山中さんとの別れも来そうな気がする。やっぱ陳腐かもやけど何かの心にある重しが天上に上がるのを妨げてるとかな。日本のホラー映画みたいに何らかの恨みが晴れたりの枷を外す事が出来たら、地縛霊みたいな状態から解放されるとかじゃないかね。知らんけど。
終わったら又コラムのネタが……。ま、探偵しよったら(していたら)ネタは何かあるやろ。あっ、そういえば明日の昼間、調査入っていたな。地元若手ベンチャー企業社長の不倫調査ってか。依頼人の女房はあんなにモデル並みの美人やのに。もう世の中の男女よ、一人に決めたら、つがいで一生生きたまえよ。あちらこちらに欲望の触手を伸ばすんじゃねーよ。待ってな、尻尾つかまえてやるけん。
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