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サヨナラ山中さん(最終回)
昭和三十ニ年って、六十ニ年前?
じゃ、ここで首を吊って死んだ人は。
「山中さん、ちょっとしつこくて済みませんが、ここにいる幽霊って山中さんだけですか」
「え? いえいえ。いっぱいいますよ」
「は? いっぱい?!」
「ええ、うじゃうじゃいますよ」
ひぃーーっ!!
「うじゃうじゃ……?」
「ニ三十……いや四五十……いや、もっといるかもしれんですね」
「わわわ、でも…こんな狭いとこに……」
「斉藤さん、死んだ者に実体はなかですよ。私だって実の体じゃなかです。斉藤さんの脳が見せとるだけです」
「……な、なんか分かります」
「ここで死んだ者は魂となって重なっとるんです。多分、日本中どこもです」
「魂……日本中…あ、あのう、ここで形で見えるのは山中さんだけですか?」
「いや、たまに他の部屋でも、ギャーって聞こえたりしますから、他の誰かも見えてるかもしれんですね。はい、別の幽霊が。それが波長というもんでしょう」
「はあ……」
「あ、それと斉藤さんが、斉藤さんの前の住人を気にしてるなら大丈夫ですよ」
「ここで自殺した人ですか」
「ええ、いつか私が若い人を慰めとったって言ったの覚えてますか」
「あ、ああ、始めの頃」
「そうです。心配なかですよ。今はちゃんと魂です。しばらくそこの隅で蹲って泣いとったですけど」
「ひッ!……わ、分かりました、分かりました。と、とりあえず山中さん、も、もういいです」
「斉藤さん大丈夫ですか。顔色悪かですよ」
「そうで…いやいや、山中さんよりは良かでしょうもん」(良いでしょうよ)
「ええ私は幽霊ですからね。
ははははははは…はははは……」
山中さんは笑いながら消えて行った……。
俺は…俺は今……
数えきれないくらいの魂の中にいる……?
もうもう、もうもう無理。
もう怖いからーー。
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