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ほどなく、車は豊橋駅のロータリーに停まった。
「なんか駐車場いっぱいみたいだから、ここでいい?」
「あ、うん」
ちらっと見たけど、駐車場はところどころポツポツ空いているのが分かっていた。でもそれを指摘するのも無意味だと思って、私は素直に車を降りた。
「また連絡する!」
「うん、またね」
浩介は私がこれから新幹線で東京に帰ろうとしているのが分かっているのだろうか。
「……」
豊橋駅。名古屋を目の前にしたこの土地は、どこか物憂げな空気が漂っている。
昼にここへやって来た私は、浩介の車で軽くラーメンを食べて、ホテルで体を彼に委ねた。
夕方になる今、私は再び同じ駅に立っている。
考えたくない事実が心に迫って来た。
『都合のいい女』。
呼び出せばホイホイ体と金だけ差し出し、余計なことは一切尋ねない。
男にとって『最も都合のいい女』。
薄々分かっている……自分が彼の永遠のパートナーになれないというのは。
でも、ベッドの中で囁いてくれる甘い言葉は私の体と心をこれ以上無いほど喜ばせてくれる。“将来、一緒になろう”っていう言葉も、あの時ばかりは本当のように聞こえて、涙が出るほど嬉しかったりする。
だから、この関係は私が『選択した道』なのだ。
(私はあと何回この駅のホームに降りるんだろうか)
17時15分発のこだまを待ちながら、私は自然にため息をついた。
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