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2.切なさと雨と……
次の日……外は雨らしい。秋の雨はどことなく切なくて、感傷にひたるには十分な演出をしてくれる。
「あー……もう10時だ」
のっそりとベッドから起き上がる。休日だからといって、この時間に起きるのは問題だと自分でも分かっている。
浩介に抱かれた次の日は微熱が出るほど体がだるくなる。
彼が全く避妊に協力してくれないから、婦人科からピルをもらっていて、それが体温を高くしている。少し太ったのも含め、色んな副作用らしきものがあるけれど、これを止めたら絶対あってはいけない悲劇が起きるのかと思うと怖くてやめられない。
女っていうのは本当に複雑で不便な生き物だ。
「絵里—、まだ寝てるの?」
階下で母が心配そうに声をかけてきた。私がここ半年ほど元気がないのを心配しているのは私も分かっている。
自分でも分からないのだ……どうしてこんなに生きるのが苦しいのか。20代の頃は自分の美貌に執着して、周りからそれを褒めてもらうことでイキイキしていたように思う。
今だって別に急に衰えが目についているわけでもないけど、30歳になって、私は自分がどこへ向かっていいのか……迷子になってしまった。
「今降りるよ」
なるべく顔色が悪くないように軽くファンデーションを塗って、居間に顔を出す。すると母はちょっと眉を寄せて怪訝な顔をした。
「あんた朝ごはんも食べないで……それ以上痩せたらどうするの」
「うん、大丈夫だよ」
私が太ったという事は、母には気づかれないレベルらしい。
それよりも、私は“いかにもらしく”テーブルの上に置いてある一枚の写真に目がいった。
「なにこれ?」
手にとると、メガネをかけた若い男性が笑顔で写っていた。登山でもしているんだろうか……そういう格好で岩の上に腰をかけている。
こういう人と結婚できたら幸せになるのかなっていう感じだ。
「ああ、それねぇ、お母さんの知り合いの息子さんなの。いいお嫁さんいないかしら〜って言うから、絵里にどうかと思ってスナップ写真を借りてきたのよ」
「そうなんだ」
「ねえ、軽い気持ちでお見合いしてみない?」
「……お見合い」
考えてもいなかった事だった。
母には浩介の事は絶対秘密だったし、私も彼との未来に幸せがあるとは思っていなかった。だからといって逃げ道でも探すようにお見合いをするっていうのもどうだろう。
「まだお見合いとかは考えてないから、ごめん……断っておいて」
私のそっけない言葉に、母は明らかにガッカリしていた。私がお見合い話にすぐ食いつくとでも思っていたんだろうか。
姉が2年前に結婚してから、親が急に私にも結婚を意識させるようになったのはちょっと窮屈だ。
(結婚できるような相手がいればね……そりゃあ私だってしたいって思うよ)
今の私は結婚できる相手もいないし、かといって全くのフリーっていうわけでもない。
(私は結婚出来るんだろうか……)
浩介の存在が私の未来に全くないのが再確認できてしまい、やっぱり軽く落ち込む。
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