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初雪と忘れられない記念日
6時に起きた私は、服を着替え、玄関の扉を開けた。
いつもなら、すぐにランニングを始めるのだけれども、
いつもと違う景色を見て、私は足を止めた。
普段は黒いアスファルトが、辺り一面真っ白で、
空からしんしんと降ってくる白い雨。
それに、私のアパートの目の前に流れる川の音が、
まるで、時が止まっているかのように静かだった。
「雪だ。」思わず呟いた。
昨日の天気予報では、朝から夜にかけて、
雪が降る予定だった。
そして、生まれてきて10年間、私は、雪を見たことがなかった。つまり、これがこの地、東京の、そして、私にとっての『初雪』だった。
今まで家族と一緒に沖縄に住んでいた私は、今年の春、声優になる夢を追いかけて、ここ、『東京』に来た。
そして、それから半年以上経過した昨日、嬉しい知らせが届いたのだ。
新作アニメの、声優のオーディションに合格したのだ。
まるでそれを祝福しているかのような白い雪に、私の心が踊る。
いつものランニングコースと真逆の方へ走り、
私のアパートから1番近い公園に着くと、
そこには、近くに住む人達が集まっていた。
ちょうど朝のラジオ体操を終え、
深呼吸をしている彼らの近くまで行った私は、
「おはようございます」と一言。。
「あら、あら、おはよう。今日は嬉しそうだね。」
私はその場にいた人達に、生まれて初めて雪を見たこと、
声優のオーディションに受かったことを伝えると、
皆が、まるで自分が合格したかのように喜んでくれた。
「ちょっとこっちに来て。」
そう言うおばあちゃん達に、しばらくついて行くと、
そこには、さっきの場所とは、比べ物にならない量の雪が積もっていた。
ここの下がため池になっているらしく、
他の所よりも沢山雪が積もるらしい。
朝の6時にも関わらず、多くの子供達が雪合戦をして、
はしゃいでいた。
その中に隣の部屋に住む親子の姿を見つけた。
「おはようございます。.......うわっ!!」
挨拶をした私に、子供たちは、容赦なく雪だるまを投げてきた。私が応戦していると、遂には、知らない子供たちまでも参戦してきて、気がつけば、公園にいる人全員で雪合戦をしていた。
「ハァッ、ハァ.......ッ」疲れて地面に大の字形に転がった私の上に、子供たちが覆いかぶさってくる。
1人、2人、3人.......。5人.......。
「ちょっ、苦しい...よ。.......」
あまりの重たさに耐えれなくなった私は、何とか子供たちに
に離れてもらい、やっとの思いで抜け出した。
「お姉ちゃんよわ〜い」
「お父さんならもっといけるよ」.......。
と子供たちが思い思いに話かけてくるのを他所に、
この幸せが永遠に続けばいいのに。
そう心から思うのだった。
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