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――本当に、なーんで私この子が好きになったのかなあ。
おまじないを試した翌日。ホームルームまでの時間を持て余しつつ、私はいつものように“彼”を観察していた。
車田猛。柔道部所属の、筋骨隆々で大柄なクラスメート。繊細さの欠片もない太い眉毛に大きな鼻、イモ臭い顔立ち。顔は全然好みから遠い。好みだけで言えば、間違いなく胡桃の彼氏である葛城先輩の方がイケメンだろう。
けれど、私が今好きなのは葛城ではなく、あの車田なのだ。豪快に友達としゃべっている男らしい声、親しい仲間にだけ見せる笑顔。全部が全部、私のハートの奥深くを刺激する。ドキドキして、視線が外せなくなってしまう。きっかけはなんだったのだろうか。柔道部の練習をこっそり覗くようになったのは、むしろ好きになってからで。何が理由でそうするようになったのかはイマイチよく思い出せなかったりする。
――まあ、恋なんてきっと、そんなもんだよね。
何故好きになったのか、なんて。多分後付けの理屈でしかないのだ。ただ気がついたら惹かれていた、気がついたら目で追いかけるようになっていたという事実があるだけなのだろう。一目惚れ、というものも世の中にあるくらいだ。好きになる理由をどれほど頑張って追究したところで、きっと不毛に終わるだけなのである。
そう、むしろどうだっていい。
もうすぐあの人と両思いになれるかもしれない――その期待以上に、胸踊らせるものは何もないのだから。
――両思いになれるとは聞いたけど、最終的にはどう決着するんだろ。……もしかして、私からアクション起こさないと駄目、だったりするのかな?
ふと、車田がこちらの視線に気がついた気配があった。きょとんとしてこちらを見る少年に、思わず小さく手を振ってみせる私。すると。
――お、おおお……!?
彼はなんともまあわかりやすく――顔を赤くして視線を逸らしてきたのである。昨日までなら絶対になかった反応。これはもしや、もしかしたりするのだろうか。
「あ、あの……あのさ、野村」
そして彼は、いつもの彼らしからぬもじもじとした様子で――近づきてきて、私に告げたのである。
「ちょっとだけ……話、いいか?伝えたいことが、あるんだけど……」
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