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「ていうか、疑ってゴメンね。サイトのデザインも結構チャチいし、自称占い師ってのが胡散臭いし……完全にダメ元のつもりだった」
「まあ、気持ちはわかるよ。あたしだってそうだったし。先輩に良いよーって紹介されたはいいけど、こんなもので本当に好きな人を虜にできるのかなあって。だって、あの葛城先輩よ?超モテ男の典型よ?絶対無理って思うじゃん?」
「まーねえ」
誰にでも優しく、笑顔が眩しくて、アイドルをやっていると言われても納得してしまいそうなほど爽やかな見た目の葛城先輩。彼が女の子に告白されている現場は、今まで何度も目撃されている。そしてそのたび、多くの女子が玉砕してゾンビになったらしいということも。断っている理由が彼女達が好みじゃないからなのか、彼女がいるからなのか、はたまた彼が実は同性愛者だからではないかとか様々な噂は飛び交っていたが。いずれにせよ、ただ遠くから見るだけで同じ部活に所属しているわけでもない私や胡桃からすれば、高嶺の花も同然の存在であったのである。
諦める理由は私とは違ったが。それでも、胡桃が正攻法で挑んでどうにかなる相手でなかったのは確かだ。あのおまじないでその運命が変えられたのだとしたら、凄いと同人恐ろしいとしか言い様がない。
「めでたく私も胡桃も彼氏ができてハッピーハッピーってのはいいんだけどさー」
そろそろ何か曲でも入れようか。そんなことを考えながら、手元のタブレットを操作して人気曲を捜す私である。
「ここまで効果があるとなると、ちょっと怖いってのはあるよね。葛城先輩って、今までまともに女の子と付き合ってる様子なかったじゃん?カノジョが学外にいるからとか、実はLGBTQなんじゃねーのとかいろいろ言われてたけど……おまじないを使うと、それ全部すっ飛ばして、胡桃のことを好きにならせちゃうわけでしょ」
「まあ、そうなんじゃない?先輩も言ってたけど、あのおまじないってカノジョがいる相手とか、同性愛者とか相手でも効果があるって話だし。そういう感情とかを、こっちの都合の良い方に捻じ曲げられちゃうんだってー。先輩が試したのか、妙にリアルな話されたけど……あ、採点システム発見!やりたーい」
「あ、コラ!勝手に入れるなし、私が音痴なの知ってるくせにー!」
胡桃は嬉々として私からタブレットをひったくると、採点機能を設定しようと指をペンを滑らせている。私は歌唱力にはてんで自信がない――というか声質が悪いのか、歌ってもマイクがほとんど声を拾ってくれないのだ。おかげで採点機能を使うと、点数が悲惨極まりないことになる。気がしれた間柄の胡桃だからこそ一緒にカラオケに来るのであって、そうでない付き合いならまず人前で歌ったりはしなかったことだろう。
タブレットを持って逃げ回る彼女からどうにか目的のものを奪取し、設定されかけた採点機能の解除にどうにか成功する。ああ、曲をまだ入れていなくて本当によかった。
「採点機能ダメ絶対!私はや・り・ま・せ・ん!ていうか、さっきまで何話してたんだっけ……あーそうだ、洗脳して人の思考を変えさせてるみたいでちょっと怖いねってこと言ってたんじゃん」
彼女に再度奪われないようにタブレットを遠ざけながら、先ほどの会話の続きに入る。胡桃からすれば、その話は至極どうでもいいことだったのだろう。えー、と眉を寄せてつまらなそうな顔を作る。まあ、興味がないからこそ、強引に話題を切り替えに行ったのだろうが。
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