<後編>

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 *** ――ほんと、薊って馬鹿で可愛いよね。  明るく薊と話をしながら。あたしは心の中でほくそ笑んでいた。  彼女は、どうやら本当に何も気づいていないらしい。どうして自分が、好みからかけ離れた容姿である車田を好きになったのか。そして――あたしがもしかしたら“おまじないを二回以上”実行していたかもしれないという可能性に。  おまじないについて聞かれた時、あえてサイトに書かれていない情報は省いて教えた。だからきっと薊は誤解しているはずだ。恋愛を成就させるおまじないは――“恋をされる本人が実行しなければ意味がないはずだ”と。 ――薊が悪いんだよ。あたしが葛城先輩のこと好きなの知ってるのに……“親友”なのに邪魔しようとするからさあ。  だから、漫研の先輩から聞いたおまじないを。自分に使うよりも前に――薊に、使ったのだ。  薊が、それまでずっと“キモい”“汗臭い”“イモくさくてうざい”と馬鹿にして嫌っていた車田猛のことを好きになるように。  彼女は自分の趣向が180度変わったことに気づかなかった。いつの間にか、好きな相手がすり替わっていることを自覚することができなくなったのだ。車田のことをずっと、生理的に受け付けないと嫌いまくっていた事実さえも忘れて。そりゃあ、クラスメート達が驚くのも無理からぬことだろう。カップルになった双方が、突如嫌いあっていたはずの相手に愛を囁いたのだから。 ――これで、葛城先輩はあたしのモノだから。薊は車田君と幸せになってればいーよ。ね、フラレ役にしないだけあたし優しいでしょ?  誰も不幸に“気づかない”。それなら、何を迷うことがあるのか。  あたしたちは今、全員揃って幸せだ。  世間的にはそれは、まごうことなきハッピーエンド。そう呼んで差し支えないはずなのだから。
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