短編集~プリズム 桜の木の下で

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 普段なら使わない高速道路を利用したのは、仕事を終わらせた後だから。  料金所を出るとすっかり夜に包まれていた。温泉街へは左に曲がる。  「え……」  驚いた。中央分離帯や道路沿いにはライトアップされた桜が咲いている。  私たちの住む街は、大型連休の時に満開になる。だから、もう花は終わった。でも、ここはまだ綺麗だ。視線を奪われる。  「驚いた?」  私の驚きの表情を見て、彼が嬉しそうだ。  「うん、驚いた。すごいね、ずっと続いてる」  夜空の下、灯りに照らされた桜の並木は、内側から光を発しているようだ。  彼は、途中にあるパーキングに車を入れた。他にも同じように見物する人がいて、それなりに(にぎ)やかだ。でも、夜の空気に吸い込まれるのか、声がひそやかに聞こえる。  桜は近くで見るともっと綺麗だった。この場所はソメイヨシノよりも、花と赤い葉が同時に開く木が多い。  「エゾヤマザクラだよ」  不思議そうに見上げる私に、彼が説明してくれた。
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