短編集~プリズム 桜の木の下で

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 「少し寒いね」  夜というだけでなくて、この場所は街の中心地よりも気温が低く感じる。  「うん。だから咲くのが遅いんだ。連休中だと早いんだよね」  でも、桜を見ていると、寒さが気にならない。  彼は私を、大きなエゾヤマザクラの下に誘ってきた。風が少し吹いているので、花びらが舞い始めて、すごく綺麗だ。  二人で向かい合って立つと少し恥ずかしい。(うつむ)く私に彼は顔を上げさせた。真剣な表情に引き込まれる。  「俺が知ってる一番綺麗な場所で言いたかったんだ」  息を飲むと、彼は真剣な表情のまま、永遠を誓う言葉を告げてくれた。  「結婚しよう。一生大事にする。俺と一生一緒にいて」  彼がどうしてこの時季に来たいと言ったかを知って、感動で瞳が潤んだ。ためらいはなかった。  「はい……私も貴方とずっと一緒にいたい」
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