短編集~プリズム 桜の木の下で

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 彼がカレンダーを指さした先を見て、私は首を(かし)げた。  「この日に予約しようと思ってるんだ。連休終わったら後だから取りやすいと思うんだよね」  (うなづ)いた。日本中が黄金(きん)色に輝くらしい連休が終わった後の週末になるから、そこまで混雑するとは思えない。でも……どうして、わざわざ連休を外すのかが分からないから不思議だった。  「そうだと思うけど……」  不審そうな声だと思ったようで、彼は苦笑しながら返してきた。  「見せたいものがあってね。でも、それだけじゃ寂しいと思うから、温泉にも泊まってゆっくりしたいなってね」  温泉……日本でも有数の温泉地のある街が彼の生まれ故郷。温泉からは離れた場所だけど、今でも彼の実家はそこにある。  彼の実家に行く時は日帰りが多い。簡単に来られる場所だから、私は泊まったことはなかった。  でも、温泉街にあるホテルに泊まって、ゆっくりしたいと思ったことは何度もある。泊まれるなら嬉しい。  「泊まってみたいと思ってたけど、いいの?」  「もちろん。それじゃ、ネットで予約……」  彼は言いながら、タブレットでホームページを見始めた。
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