2話

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帽子にサングラスをして変装のつもりらしいが、尚希同様キラキラオーラが駄々洩れだった。思わず「何してんだあいつ」とため息がでた。 「……はぁ」 「姫ちゃんが心配でついてくるのは構わないんだけど、……邪魔されたら困るなぁ」 仮にも今日は尚希の恋人を演じるということは、天王寺にとってたぶん不満しか見えないだろうと分かるだけに、尚希も俺も途中で爆発して邪魔されたら非常に困ると、顔を見合わせて一緒に苦笑してしまった。 で、肝心の彼女はと尚希に聞けば、遠巻きに監視してると返された。恋人だと認めれば諦めて黙って帰るとのことらしい。 「二人も監視されてると思うと、なんか疲れますね」 「全くね」 こうして俺たちの尾行&監視付きの芝居が幕を開けた。 「ところで水族館に行こうと思ったんだけど、電車の乗り方、内緒で教えてもらってもいい?」 俺の手を引いて駅構内へ入ってすぐに、尚希が可愛くそう囁いてきた。 「もしかして乗ったことないんですか?」 「いつも車だから、公共の交通ってタクシーくらいしか利用したことなくて」 「ってことは、初めて電車に乗る……とか?」 「イギリスで2回くらいは乗ったことあるけどね」 それってここでは初めてだよな。と、俺はかなりの衝撃を受けてしまった。まさかこの年まで電車を利用したことないなんて、普通あり得ないだろう。 でも天王寺家ってすごいお金持ちで、財閥で、お坊ちゃんで、つまりはそういうことか。俺は自分で納得して、深い息をつく。世の中って不公平だとなんだか寂しくなった。 切符販売機まで足を進め、俺は路線案内を見上げた。 「えっと水族館に行くなら、240円ですね」 「さすが姫ちゃん」 複雑な路線図を見上げて、すぐに回答した俺に尚希はキラキラな瞳を送りながら、なぜか感動していた。普段から電車を利用するものなら、これくらい至って普通のことなのだが、どうやら尚希には感動の域に達していたみたいだ。 そして切符を購入すると、尚希は携帯電話を取り出して何かを送信した。 「これでよし」 「どうかしたんですか?」 「尚ちゃんへの連絡完了」 「天王寺へ連絡?」 「水族館へ行くって連絡したの。だって尚ちゃんだって電車乗れないよ」 尾行するつもりならこのまま電車に乗らなくてはならないが、天王寺も電車に乗れないと尚希が小さく笑った。だったら行き先を教えて車で先回りすればいいと考えての行動。 けど、尚希はちゃんと尾行されてるということは、気づかない振りをしてあげると付け加えた。本人は精一杯の変装をしているつもりなのだから、ここは黙って見て見ぬふりをしてあげるのが大人だってさ。 メール内容『これから水族館に行くね』これだけ送ったとのことだった。
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