1話

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「そこまでいうなら、二人がデートしてるところ見せてよっ」 何を思ったのか、女性はいきなりそう叫んだ。 デ、デートって。ちょっとまてぇぇ……、なんでそうなるんだと俺が慌てふためいてしまう。非常に困った顔で尚希を見れば、尚希はにっこりと笑いながら女性を見ている。 「僕たちが恋人同士だってわかったら、諦めてくれるの?」 「そ、そうよ。本当に恋人同士だっていうなら、諦めるわ」 机に肘をついて、頬杖ポーズで尚希はどこか嬉しそうにしていた。けれど女性は睨むように尚希を見ている。 「なら構わないよ」 「……どうせ嘘に決まってるわ。もし嘘だったら私と付き合ってよ」 「わかった。僕たちが恋人同士じゃないっていうなら、僕はその条件を飲むよ」 自身たっぷりに言った尚希に、女性は男同士でありえないとボソリと口にすると、わずかに口角をあげたような気がした。尚希と俺が付き合ってなどいないと見抜いて見せると、女性は少々ムキになって指示を出してきた。 「今度の日曜日、森の新宮駅前噴水の前でどう?」 「そこで構わないよ」 女性が指定してきた待ち合わせ場所で構わないと返事をする尚希。ただし、女性は二人の関係を見抜くため遠巻きに見ていると告げた。二人は普段通りのデートをすればいいと言われた。 それに対し、尚希はいつもは車だけど、女性に合わせて公共の交通を利用するというと、女性は時間を指定し、今日のところは大人しく帰っていった。 カフェから女性がでていくと、尚希が軽いため息を零した。 「今の、僕のストーカー」 「ええっ」 「イギリスでしつこく付きまとわれてて、まさかここまで追ってくるとは思わなかったよ」 うんざりした表情で尚希は、カプチーノを口に運んだ。 尚希の話によると、留学生だった彼女とは同じ大学で、一方的に惚れられてしまい、何度も断ったんだけど、どんどんエスカレートしていき、いつのまにかストーカーのようになっていたとの話だった。 かといって、危害を加えられたわけでもなかったため、ひとまず無視を続けていたらしい。 「あ、あの、……約束なんかして大丈夫なんですか」 彼女との事情は分かったが、デートとか恋人とか、彼女と付き合うとか、いろいろ大丈夫なのかと俺は俺なりに心配になって声をかけた。 「日曜日、もちろん空いてるよね、姫ちゃん」 「へ……?」 これって、これって、やっぱり俺は巻き込まれてるんだよな。
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