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どんなにお願いしても、懇願しても、事情を説明しても、天王寺の首が縦に振られることはなく、尚希はガックリと気を落とす。
「フリなんだからいいだろう」
尚希が何だかすごく可哀そうで、思わず俺は尚希の肩を持ってしまう。
「フリでも恋人同士など、認める訳にはいかぬ」
「ストーカーって怖いんだぞ」
犯罪なんだと、俺は天王寺に詰め寄る。尚希が危害を加えられない保証などないんだと、このままだと完全に犯罪になると、俺は強く言った。実際に俺はそういった被害にあったわけじゃないが、そういったニュースは良く耳にしており、エスカレートすれば命の危険だってあることくらい知っている。だから助けてあげたいと思ってしまったんだ。
「犯罪であることは知っておる。しかし……」
「お前とも1日デートしてやる」
「……ッ」
思わず啖呵を切ってしまった。尚希とのことを許してくれるなら、天王寺とも1日デートしてやると口から言葉が出てしまった。
自分で言っておいてなんだが、デートとか恥ずかしすぎた……。しかもそんなんで納得して許可がいただけるとは思わず、しくじったと慌てて口を押えたのだが、
「しかと心得た」
天王寺からあっさりと許可が下りた。
さすがに俺も尚希もきょとんとなり、天王寺をじっと見てしまう。何か裏があるんじゃないかと、俺が疑いの眼差しを向ければ、天王寺は不敵で嬉しそうな笑みを浮かべたまま俺に近づく。
ゴクリと唾が喉を通った。
「約束であるぞ、1日私と共におると誓いを立てよ」
「初めに言っておくけど、ただのデートだからな」
いかがわしいこと抜きの、ただのデートだとちゃんと釘を刺しておく。待ち合わせをして、遊園地とか映画館とか公園とかに行くだけの、そう、ただのデートだと。
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