21人が本棚に入れています
本棚に追加
カランコロン。
木製の呼び鈴が立てる子気味の良い音に合わせて、私はとびきりの笑顔を見せる。
「いらっしゃいませー」
「邪魔するぞ、笑香」
ボーイッシュなアルトボイスで、真っ赤なベストのおかっぱ少女が入ってきた。
「なーんだ、長谷川かぁ」
私はいつも通り、彼女を名字で呼んだ。
下の名前で呼ばれるのは嫌いらしい。なんでも女の子らしすぎて似合わないとか。
花子って名前、かわいいと思うんだけどな。
「そうがっかりするな。せっかく客がきたというのに」
「だってさ。毎日同じお客さんばかりだと……店の経営的にね」
長谷川以外誰もいない店内をながめて、ついた深いため息が白く凍りついた。
――別に店の空調が壊れているわけじゃない。私、小泉笑香は雪女なのだ。
「そうは言っても、地獄の三丁目も過疎化だからな」
「それはわかってるけどさー、それでも売上が」
「あ、ダージリンとスコーンのセットを頼む」
私の愚痴が長くなりそうだと思ったのか、長谷川は話の途中でわざと注文をはさんだ。
最初のコメントを投稿しよう!