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「はいはい、かしこまりましたぁ」
二度目のため息をついて、茶葉をティースプーンに二杯ポットに取り分ける。
「茶葉が二杯ってことは、ちゃっかり自分も飲む気か」
「だってそろそろお昼時だしさ」
お湯を注ぐと力強くフルーティーな香りが漂ってくるけれど、今はちょっとだけ我慢。
ポットに蓋をして、煮出している間にスコーンの準備。
「どうする? 今日はスコーン温める?」
「いや、常温でいい」
「そっか。じゃあ私は温めようっと」
スコーンを四つショーケースから取り出して、二つずつ別々のお皿に乗せる。
片方のお皿を電子レンジに入れて、ほんの少しだけ温める。
「笑香は本当に温かい食べ物が好きだな、雪女なのに」
「あっ、そういうのって差別!」
くだらない話をしながら、クロテッドクリームとジャムを小さなココット皿に入れていると、ちょうど同時くらいに紅茶とスコーンが出来上がった。
紅茶を高い位置からティーカップに注ぐと、ダージリンの香りがカウンター席いっぱいにあふれ出した。
「はい、おまちどおさま」
「うむ。いただく」
長谷川は金の縁取りがされたティーカップに口をつける。
それを見て、私も紅茶を一口。ちょっと濃いめに煮出した紅茶がほかほかと喉をうるおす。
「せっかくいい茶葉なんだから、もっとたくさんのお客さんに飲んでほしいんだけどな」
そんなことを呟いて、わたしはスコーンに手を伸ばした。
ちょうどそんなタイミングで、入口の呼び鈴がカラコロと鳴る。
本当はあつあつのうちにスコーンを食べたかったけど、今はそれよりお客さんだ。
「いらっしゃいませー」
入口にとびっきりの営業スマイルを向ける。
新鮮なレモン色の髪をした小柄な女の子、初めてのお客さんだ。
お客さんはきょろきょろと店内を見回して、こう呟いた。
「なんや、このあたりじゃ珍しい洒落た店構えにつられて入ってみたけど……あんまり流行っとらんみたいやな。ハズレか」
ぐぬっ! し、失礼なお客さんだ!!
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