第一話:雪女

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「お一人様でしたら、カウンター席へどうぞ」  どうせどこの席でも空いているのに、見栄でそう案内する。  そんなことはすぐにわかったんだと思う。  なんとなーくバカにしたような視線をこっちに向けると、長谷川から一個空けた席に座る。  お客さんはテーブルに置かれたメニューをさらっと読んで、ぱたんと閉じる。  そしてぶっきらぼうにこう聞いた。 「おススメは?」 「ええと。ダージリンとスコーンのセットです」  パッと出てこなくて、私は長谷川の注文と同じものを答える。  お客さんはフンと鼻を鳴らして、かばんからスマートフォンを取り出す。  近くで見るとなかなかかわいいのに、こんな態度じゃなぁ……。 「スコーンは温めますか?」 「いんや、そのままでかまわへん。どうせすぐ出るし」  すごくむっとしちゃうけど、お客さんはお客さんだ。  私はさっき使ったポットを一回ゆすいで、紅茶を淹れなおす。  険悪な雰囲気を察して長谷川も黙りこくっちゃうし。  あーあ、なんだか今日はついてない。 「お待たせしました」  これ以上機嫌を損ねないようできるだけ丁寧に、だけれど目をそらしながら紅茶とスコーンを置く。  お客さんはすぐにカップを手に取って、一口飲むなりこう言った。 「いや美味いんかい!?」  えっ、えー!?  まずくて怒られるならともかく、なんで美味しくて怒られるんだろう! 「さっきから聞いていれば、何だ。感じの悪い」  長谷川がお客さんをにらみつけた。  お客さんはバツが悪そうに、少しだけ距離をとって答える。 「いや、すんまへん! 他の客がぜんぜんおらんもんやから、勝手にめっちゃまずいってきめつけとった!」 「おい!」  長谷川が私の代わりに怒ってくれた。  でも私は怒るより先に、落ち込みが来ちゃう。  だって、お客さんの言うとおりだもんなあ……。
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