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「お一人様でしたら、カウンター席へどうぞ」
どうせどこの席でも空いているのに、見栄でそう案内する。
そんなことはすぐにわかったんだと思う。
なんとなーくバカにしたような視線をこっちに向けると、長谷川から一個空けた席に座る。
お客さんはテーブルに置かれたメニューをさらっと読んで、ぱたんと閉じる。
そしてぶっきらぼうにこう聞いた。
「おススメは?」
「ええと。ダージリンとスコーンのセットです」
パッと出てこなくて、私は長谷川の注文と同じものを答える。
お客さんはフンと鼻を鳴らして、かばんからスマートフォンを取り出す。
近くで見るとなかなかかわいいのに、こんな態度じゃなぁ……。
「スコーンは温めますか?」
「いんや、そのままでかまわへん。どうせすぐ出るし」
すごくむっとしちゃうけど、お客さんはお客さんだ。
私はさっき使ったポットを一回ゆすいで、紅茶を淹れなおす。
険悪な雰囲気を察して長谷川も黙りこくっちゃうし。
あーあ、なんだか今日はついてない。
「お待たせしました」
これ以上機嫌を損ねないようできるだけ丁寧に、だけれど目をそらしながら紅茶とスコーンを置く。
お客さんはすぐにカップを手に取って、一口飲むなりこう言った。
「いや美味いんかい!?」
えっ、えー!?
まずくて怒られるならともかく、なんで美味しくて怒られるんだろう!
「さっきから聞いていれば、何だ。感じの悪い」
長谷川がお客さんをにらみつけた。
お客さんはバツが悪そうに、少しだけ距離をとって答える。
「いや、すんまへん! 他の客がぜんぜんおらんもんやから、勝手にめっちゃまずいってきめつけとった!」
「おい!」
長谷川が私の代わりに怒ってくれた。
でも私は怒るより先に、落ち込みが来ちゃう。
だって、お客さんの言うとおりだもんなあ……。
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