第一話:雪女

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「うわ、こっちも美味いなぁ」  スコーンを思いっきりほおばって、お客さんが言う。 「ま、こういうザクザク系は確かに日本じゃ好みが分かれるけど、それだけで客が離れるとも思えへんなぁ」 「飲み込んでから喋れ。汚い」  長谷川がお客さんにじとっとした視線を向ける。  というか、なんでそんなにほおばったまま普通に喋れるんだろう。  頬袋がある系の妖怪なのかなぁ……? 「ってか、味も店構えも内装もええんに、なんでここ、こんなに客おらへんの!?」  半分独り言みたいに訊いて、スマートフォンに目を落とすお客さん。 「事情を知らないのは仕方ないが、それは笑香――店長のせいじゃない。ずけずけと事情に踏み込むな」 「長谷川」  私は名前を呼んで長谷川をたしなめた。  いくらなんでも今度はこっちの言い方がきつすぎる。  最初態度が悪かったのも、誤解が原因だったみたいだし、ちょっとくらい事情を話してもいいんじゃないだろうか。  そう思ったとき。 「単純なことですわ」  入口近くのテーブル席から声が上がった。  お客さんがびっくりしてそっちを向く。  さらさらの銀髪をわざとらしくかき上げて、そこにいた女性が笑う。  相変わらず、鼻にかかったイヤな笑い方。  呼び鈴には誰も気づかなかった。  単に話し込んでいたとかじゃなくて、『自分の存在感に気づかせない』という彼女の能力によるものだ。 「なんの用ですか、瑞鬼(みずき)さん」  私はキッと、それこそ雪女らしい凍える目線で、彼女をにらみつけた。
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