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2.
アレックスは自室へと続く廊下を歩いていた。
身体は機械的に前へと脚を進めるが、頭はメイド長から先ほど聞いた話が大半を占めていた。彼女とあのあとどうやって別れたのか曖昧だ。無礼な振る舞いはしていないと思いたい。
眠気はまるでない。早めの就寝をして気持ちを切り換えるつもりだったが、この感じでは到底叶わないだろう。
歩みを止める。ついには大きなため息が漏れた。
鈴を転がすような愛らしい笑い声が聴こえたのはその時だ。
は、と顔をあげる。
長い廊下の曲がり角に、小さな影が佇んでいる。
「女の子…?」
アレックスの髪より明るい茶金の長い髪と、裾がふわりと広がった黒のドレス。遠目にわかったのはそれくらいだったが、彼女がアレックスに微笑みかけているのは何故かわかった。
あんな小さな子がこんな遅い時間にどうしたのだろう。と思いかけ、ふと思い至る。
いや…それ以前に。
----この屋敷に、小さな女の子など居たか?
アレックスが気付いたと同時に、小さな影がくすくすと笑い声を残し、亜麻色の髪を翻して角に走り去る。
「あ…」
追い掛けていたのはほとんど無意識だった。
大人の男が走れば長い廊下もすぐに終わりに辿り着き、女の子が去った角を曲がる。
しかし、小さな影は何処にもなかった。大人と違い、子どもの足ではこの短時間にそう遠くへは行けないはずなのに。何処かの部屋に入ったのだろうか。
暫し呆然としていると、ふと視界に動くものを捉え目を向ける。
窓の外だ。
昼間は色とりどりの花が咲く賑かな其処も、夜ともなれば闇一色に静まっている。
その中で、チカリと月明かりを反射するものがあった。
窓際に歩み寄り、目を凝らす。
そして、正体に気付いた。
白金の髪だ。
認識すれば、人影が闇に隠れるように外を歩いているのがわかった。
「ヘーゼル様…?」
あの見事な金の髪の持ち主を、アレックスはヘーゼルしか知らない。
こんな夜更けに侯爵家の嫡子を外に出して何かあったら一大事だ。
「シャレにならんぞ…!」
慌てて踵を返す。
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