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アレックスは自室へと続く廊下を歩いていた。 身体は機械的に前へと脚を進めるが、頭はメイド長から先ほど聞いた話が大半を占めていた。彼女とあのあとどうやって別れたのか曖昧だ。無礼な振る舞いはしていないと思いたい。 眠気はまるでない。早めの就寝をして気持ちを切り換えるつもりだったが、この感じでは到底叶わないだろう。 歩みを止める。ついには大きなため息が漏れた。 鈴を転がすような愛らしい笑い声が聴こえたのはその時だ。 は、と顔をあげる。 長い廊下の曲がり角に、小さな影が佇んでいる。 「女の子…?」 アレックスの髪より明るい茶金の長い髪と、裾がふわりと広がった黒のドレス。遠目にわかったのはそれくらいだったが、彼女がアレックスに微笑みかけているのは何故かわかった。 あんな小さな子がこんな遅い時間にどうしたのだろう。と思いかけ、ふと思い至る。 いや…それ以前に。 ----この屋敷に、小さな女の子など居たか? アレックスが気付いたと同時に、小さな影がくすくすと笑い声を残し、亜麻色の髪を翻して角に走り去る。 「あ…」 追い掛けていたのはほとんど無意識だった。 大人の男が走れば長い廊下もすぐに終わりに辿り着き、女の子が去った角を曲がる。 しかし、小さな影は何処にもなかった。大人と違い、子どもの足ではこの短時間にそう遠くへは行けないはずなのに。何処かの部屋に入ったのだろうか。 暫し呆然としていると、ふと視界に動くものを捉え目を向ける。 窓の外だ。 昼間は色とりどりの花が咲く賑かな其処も、夜ともなれば闇一色に静まっている。 その中で、チカリと月明かりを反射するものがあった。 窓際に歩み寄り、目を凝らす。 そして、正体に気付いた。 白金の髪だ。 認識すれば、人影が闇に隠れるように外を歩いているのがわかった。 「ヘーゼル様…?」 あの見事な金の髪の持ち主を、アレックスはヘーゼルしか知らない。 こんな夜更けに侯爵家の嫡子を外に出して何かあったら一大事だ。 「シャレにならんぞ…!」 慌てて踵を返す。
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