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…落ち着こう。 アレックスはもう何度目になるかもわからない言葉を脳内で呟いた。 朝の食堂は全ての窓のカーテンが引かれ、白い陽光がいっぱいに差し込んで室内を照らしている。テーブルに敷かれた真っ白いクロスが朝日を浴びて輝くばかりに眩しい。 清々しい朝の光景だ。 だがしかし、今のアレックスにはその全てが目に入ってこなかった。何せ脳内で呪文を呟くのに忙しい。 「おはようございます。ヘーゼル坊ちゃん」 「坊ちゃん、おはようございます」 食堂の入り口でメイドたちが口々に挨拶を言い頭を下げる。同時にホイールの軋む音が聞こえて、アレックスの心臓がひとつ大きく鳴った。落ち着け。 アレックスは顔を上げて食堂の入り口を見た。 「おはようございます。ヘーゼル様」 「アレックス先生、おはようございます」 車椅子に座った少年がアレックスの方を見てにっこりと微笑んだ。 少年―――ヘーゼルはメイドに車椅子を押されてアレックスを通り過ぎ、部屋の奥へ向かう。 思わずその姿を目で追ってしまった。 ふ、普通だ…。 いくつもの修羅場を想像していたアレックスは拍子抜けすると共に安堵した。 昨晩のあれはまさか夢か…? もしかして俺は悪夢をみていたのか? 一度そう思うと、夢だったに違いないと思えてくる。 なんだ。あれは夢だったのか。 主人たるヘーゼルが席に就いたことにより運ばれてきた朝食の皿を前に、やっと空腹が沸いてくる。今の今まで全く空腹を感じていなかった。 心底の安堵とともにカトラリーを手にし、アレックスは自身の懐から聞こえてきた紙の擦れる音に口許を引き攣らせた。 あ、夢じゃない。 途端にその紙が何であったか、昨晩何があったかもまざまさと思い出されてきたのであった。
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