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「今晩は、アレックス先生」
ヘーゼルを探して迷い込んだ謎の地下通路を進んだ先でアレックスを待ち受けていたのは、雇い主の子息であり、アレックスの主人でもあるヘーゼルそのひとであった。
暗がりからしっかりとした足取りでヘーゼルが歩み出てくる。差し込む月明りの元、ヘーゼルの白金の髪がきらきらと光っている。これが平時であれば見惚れていただろうが、アレックスはとてもそれどころではなかった。
「…ヘーゼル坊っちゃん…? 貴方、脚が…」
半ズボンから伸びる二本の脚がいつもの車椅子に乗ることなく、しっかりと地面について身体を支えている。不安定さなど微塵もない。今しがたもヘーゼルは平然と歩いていたではないか。
確かに、先日はこの子どもに本当は歩けるのではないかと問い詰めた。けれど実際に目の当たりにしてしまうと俄には信じられない。
「うん。本当は歩けるんだよ。先生が案外鋭いものだから、歩けるんじゃないかって聞かれた時はびっくりしちゃった」
呆然とするアレックスに対して、ヘーゼルはあっさりと認めてみせる。まるで先日のアレックスの詰問など初めからなかったかのように。ほとんど脅しのような返答を寄越してきたくせにだ。
今もなんだか馬鹿にされた気がする。なんだ案外って。いや、今はそこを気にしている場合じゃない。
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