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「先生が妾の子どもだってこと?」
真正面から切り込まれ、アレックスはぐっと言葉に詰まった。
顔色をなくしたアレックスを一瞥し、子どもが車椅子を操作してアレックスと向き直る。そこには先ほどまで浮かべていた不安げな表情はない。
寄って来た黒い犬の頭を撫でながら淡々と言う。
「ああでも、妾でもないんだっけ? コストナー男爵夫人は妾だとは認めていないし、先生は表向き孤児院から引き取られたことになっているんだもんね」
「…まさか、調べたのか」
「うん。王都に調べ物が得意なひとがいるんだ。お父さんの知り合いなんだけど、タイプライターを使えば筆跡は誤魔化せるし、執事長は目が良くないから王都に出す手紙が一通増えても気が付かれなかったよ。やっと昨日お返事が来たんだ。お父さんの書斎に忍び込んで手紙を取って来るのはちょっと大変だったけど…先生のその顔を見れば、よく調べられていたみたいだね」
アレックスの背筋がぞっと冷える。
この子どもは一体何だ。
確かにこちらが見下ろしているはずなのに、アレックスは眼下の車椅子に収まった子どもにまるで見下されているような錯覚に陥る。
じわじわと指先から体温が奪われていく。いっときもじっとしていられないような焦燥感を覚え、アレックスはやっと自覚する。
これは恐怖だ。
得体の知れない子ども。己の理解の範疇を越える存在に対する恐怖だ。
「あなたは、いったい…」
呆然と呟くアレックスに、高く澄んだ子どもの声が返る。
「ぼくはただの子どもだよ。ぜんぶ、魔女に教えてもらったの」
「魔女…」
「さあ、アレックス先生、そろそろ時間だよ。お勉強しなくちゃ」
「待て、まだ話は…!」
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